Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『キャリー』(スティーヴン・キング)

 スティーヴン・キングの長編処女作『キャリー』Carrie(1974年)読了。キング再訪の一環として・・・と言いたいところですが、実はこれが初読となります。初期の長編は『呪われた町』『シャイニング』『デッドゾーン』『ファイアスターター』、リチャード・バックマン名義の『死のロングウォーク』『最後の抵抗』『バトルランナー』等々、どれも大好きなんですが、何故かデビュー作を読んでいませんでした。未読の理由は、(当時の)文庫の表紙がちょっと嫌だから・・・だった気がします。


 狂信的なクリスチャンの母親によって育てられた内気な高校生キャリーが主人公。変わり者としてクラスではいじめられていますが、実は超能力(テレキネシス)の持ち主で・・・というお話。キング自身は仕上がりが気に入らず捨てていた原稿を、奥さんがゴミ箱から拾い出して完成させるよう励ましたというエピソードは有名です。原作の出版からわずか2年後に製作された映画版(監督ブライアン・デ・パルマ)が大ヒットして、キングのベストセラー作家への道を拓きました。デ・パルマにとっても、メジャー・ブレイク作となった記念すべき一作と言えるでしょう。


 全体がキャリー事件の報告書という体裁をとっており、新聞や雑誌の記事、関係者の発言や回想録からの採録などが挿入されます。これが主人公の心情に寄り添った物語の流れを寸断しているような印象を受けました。スタイルに凝ったキングの若書きというか。先に再読した短編作品の切れ味に比べると、ちょっとゴテゴテし過ぎているように思いました。


 とはいえ、いじめられっ子とその周囲を描く青春小説(学園物)の要素はとてもリアルで胸を打たれます。キャリーが超能力を自覚し力を解放してゆく過程が、青春小説の要素と上手く噛み合っていて、「キャリーというエキセントリックな女の子のお話」と他人事のようにスルーできない生々しさ、否、悲しさが感じられました。キングの特徴である実感のこもったキャラクター描写は、デビュー作から冴えています。


 終盤はデ・パルマの映画版では描かれなかった破壊と殺戮のスペクタクルとなっていて驚きました。プロム・パーティーでキレたキャリーが力を解放して、街を破壊して回ります。最近のリメイク版はまだ未見ですが、この辺がどう描かれているのか気になるところです。



キャリー (新潮文庫)

キャリー (新潮文庫)