Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『別冊映画秘宝 厭な映画』

別冊映画秘宝 厭な映画 (洋泉社MOOK 別冊映画秘宝)

別冊映画秘宝 厭な映画 (洋泉社MOOK 別冊映画秘宝)


 『映画秘宝』の最新ムックは『厭な映画』!このタイトルにして、表紙は『悪魔のいけにえ』のファミリー・ショット。これは読まない訳にはいきません。編集は名著『イタリアン・ホラーの密かな愉しみ』の山崎圭司氏。


 巻頭は、日本公開40周年を記念して『悪魔のいけにえ』特集。1作目のメイキング、シリーズ全作品レビュー、中原昌也氏によるトビー・フパーの第2作『悪魔の沼』レビュー、とかなり力が入っています。その後、「マン・ハント映画」「人喰い映画」「田舎が怖い映画」「実録事件映画」(フライシャーの『絞殺魔』!)、「怖い子供の映画」「動物が狂う映画」「香港三級片」等々・・・と様々なジャンルの「厭な映画」が紹介されています。中には、『トワイライト・ゾーン』撮影中のヴィク・モローと子役の事故死を引きずっていたジョン・ランディスが禊として(?)撮った『眠れぬ夜の為に』、撮影後にパゾリーニ監督が殺害された『ソドムの市』なんてのも。ミムジー・ファーマーが「厭な女優」として紹介されているのには笑った。「厭な女優」って・・・。


 二階堂卓也先生による「後味の悪いマカロニウエスタン」コーナーでは、フルチの『真昼の用心棒』やコルブッチの『さすらいのガンマン』といった残酷ウエスタンに加えて、レオン・クリモフスキーの『新・荒野の用心棒』も紹介されていました。二階堂先生はけなしてますが、意外に面白かったような記憶があります。機会があったら見返してみたい1本です。


 「厭な映画」って何かなあと考えると、ゴ●ブリの出てくる映画(ロメロの『クリープショー』とか、ディズニー映画『魔法にかけられて』等)がすぐに思い浮かびましたが、これは本書の意図しているものとは違いますね。厭な映画、じゃなくて、嫌いなものが出てくる(から厭な)映画。演出や撮り方、映画のリズムがどうにも生理的に合わなくて嫌いなのが相米慎二監督の映画。なんですが、これも本書の意図とは違いますね。


 監督と言えば、ミヒャエル・ハネケラース・フォン・トリアーなんて名前がすぐに思い浮かびます。トリアーの『ダンサー・イン・ザ・ダーク』公開当時、友人の間でもかなりヒステリックな拒否反応がありました。自分としては、それ以前に『イディオッツ』『奇跡の海』を見ていたので、「また同じことやってるよ」という感想でそれほど拒否反応は覚えなかったのですが。ハネケにしてもトリアーにしても「厭な映画を撮る人」として認知されて監督の個性に集約されてしまうと、逆に面白味(というか「厭さ」)が薄れてしまうような気がします。そういった意味では、監督が誰とも知れない低予算のホラー映画やサスペンス映画では先入観無しにいきなり厭な映画に出会える確立は高いのかもしれません。個人的には、ホラー映画は見る前からそういうものだと覚悟して臨むので、実はそんなに落ち込むことはありません。ハネケやトリアーといった監督の固有名詞と同じで、あらかじめ「厭なことが描かれる映画」ということでホラーというジャンルの定型に集約されてしまうので「厭さ」が薄れるというか。むしろ普通のドラマに「厭」要素が塗り込められた映画の方が、後味の悪さや鑑賞後の落ち込みは大きいかもしれません。


 本書に紹介されている中では、やはりジョン・ブアマンの『脱出』が圧倒的に「厭」でしたね。お盆休みに故郷の友人たちと飲んだ時も、何故か話題に出たなあ『脱出』。


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 本書に出てこない「厭な映画」を挙げると、まずは写真家ラリー・クラークの監督作品『KIDS』(1995年)。今は亡き吉祥寺バウスシアターで見ました。20年くらい前の話なんで、今見直すと別の感想を覚えるかもしれませんが、当時は「こんなに不愉快な映画は初めて見た」と思いましたね。ティーンエイジャー(というよりタイトル通りどう見ても子供)の日常(主にセックス)を生々しく描いて迫力がありました。ドキュメンタリー『子供たちをよろしく』にはかすかに残っていた救いのようなものが、『KIDS』には微塵も感じられなくて辛い気持ちになりました。ガキの頃冗談で言ってた「人間打楽器」が映像化されてたのが衝撃的でしたね。ルー・バーロウダニエル・ジョンストン他による挿入曲がムチャクチャカッコ良かったので、サントラはしばらく愛聴してましたが。「厭な映画」だったなあと。


(『KIDS』KIDS 監督/ラリー・クラーク 脚本/ハーモニー・コリン 撮影/エリック・アラン・エドワーズ 音楽/ルー・バーロウ、ジョン・デイヴィス 出演/レオ・フィッツパトリック、クロエ・セヴィニージャスティン・ピアース、ロザリオ・ドーソン 1995年 92分 アメリカ)


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 「厭な映画」として思い出すもう1本は、台湾の異才ツァイ・ミンリャン監督の『河』(1997年)。これも強烈に「厭な」映画でした。テーブルに置かれた赤い炊飯器。天井からひどい雨漏り。親父はサウナでホモ行為に耽る変態。お袋はエロヴィデオのダビングを仕事とする愛人と密会。主人公は原因不明の病気で首が曲がらなくなる。終いにはサウナで父子が・・・。息詰まるリアルな感触に、これは見てすぐ「オールタイム・嫌な映画ベスト10」ランクイン確実だと思ったくらいに不愉快極まりない映画でありました。


(『河』河流 監督/ツァイ・ミンリャン 脚本/ツァイ・ミンリャン、ヤン・ピーイン、ツァイ・イーチュン 撮影/リャオ・ペンロン 出演/リー・カンション、ミャオ・ティエン、ルー・シャオリン、チェン・シャンチー 1997年 115分 台湾)




 『KIDS』も『河』も「つまらなくて嫌いな映画」ではなくて、「厭なんだけど面白かった映画」です。他には3時間半延々と痴話ゲンカに付き合わされるようなジャン・ユスターシュの『ママと娼婦』(1973年)なんかもそんな1本。「つまらなくて嫌いな映画」は山ほどありますが、本書の意図する「厭な映画」とはまた別の話です。