Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

最近読んだ映画本

『バッドエンドの誘惑 なぜ人は厭な映画を観たいと思うのか』(真魚八重子) 

 映画秘宝セレクション『バッドエンドの誘惑 なぜ人は厭な映画を観たいと思うのか』(2017年)。映画秘宝関連の書籍としては『厭な映画』(2015年)の姉妹篇か。著者は真魚八重子さん。テーマの割には、前著『映画なしには生きられない』ほど重たくない印象なのは、真魚さんの得意分野であること、そして彼女自身のプライベートをさらけ出すような文章がないから、かなと。「厭な」物語や描写のディティールを生き生きと綴る文章は読み応えがある。始めから厭さを狙って作られた「あざとい」映画(ハネケとか)は除外されていて、これには同感。それにしても『偽りなき者』とか『だれのものでもないチェレ』とか本当に厭そうで、真魚さんの文章だけでお腹一杯だ。




『映画評論・入門!』(モルモット吉田) 

 映画秘宝セレクション『映画評論・入門!』。本書のテーマは「映画批評」。『ブレードランナー』『2001年宇宙の旅』『七人の侍』『ゴジラ』『太陽を盗んだ男』等々、いわゆるオールタイムベスト級の名作が、リアルタイムではどのように評価されていたのか検証する部分が面白い。また、映画が犯罪を引き起こすことがあり得るのか、という部分も面白い。同僚を毒殺しようとして捕まった女性の部屋から山田宏一の著書が見つかった話は最高で、作家の金井恵美子が蓮實・山根両氏の反応(嫉妬)が見たくてすぐに連絡したエピソードが凄い。「映画批評」に留まらず、「映画評論家」の存在意義、「映画評論家」っていったい何者なんだ、という検証が行われているあたりも面白かった。その辺の話は、映画ファンの雑談の中ではよく話題になることだが、こうして1冊の本としてまとめたのは珍しいと思う。


映画評論・入門! (映画秘宝セレクション)

映画評論・入門! (映画秘宝セレクション)



『監督小津安二郎<増補決定版>』(蓮實重彦) 

 名著として名高い蓮實重彦『監督小津安二郎』(原本1983年、補強版2003年)。ハスミ節は絶好調で、実に面白くてためになる一冊であった。個人的に小津作品に対して「引き算で出来上がったストイックな映画」という印象は全く無くて、むしろかなり過剰な映画という印象を持っていたので、ハスミ先生が執拗に表現の多様性、演出の自在さを強調しておられるのには成る程という感じであった。戦前のサイレント作品は『生れてはみたけれど』(1932年)しか見ていないので、是非とも探してチェックしてみようかなと思った次第。さておき、本書で気になったのは巻末に掲載された小津の年譜であった。「●事件」と「カレー事件」そして、1930年の作品『エロ神の怨霊』っていったい・・・。




『映画と本の意外な関係!』(町山智浩) 

 「映画と本の関係」と言っても、原作本と映画化作品という関係性だけではない。映画のシーンに登場する本や、引用される小説や詩、歌詞などを切り口として映画の背景や監督の思いを紐解いてゆく一冊。と聞くと、何やら堅苦しいものを想像してしまうけど、本書で取り上げられているのは文芸映画だけではない。『007』シリーズ、『インターステラー』、『世にも怪奇な物語』(フェリーニ篇『悪魔の首飾り』)、『ウォール・ストリート』、『トゥルー・グリット』、『ミッドナイト・イン・パリ』、『恋人たちの予感』、『ビフォア・サンセット』、『リンカーン』、『ソフィーの選択』、『ゴーン・ガール』、『眼下の敵』、『ベルリン・天使の詩』、『キャロル』等々。SF、サスペンス、戦争映画、ホラー、スパイ映画、恋愛映画、ドキュメンタリー、ミステリー、西部劇・・・とジャンルは多岐に渡っている。すなわち、ジャンル問わず映画と本(小説、詩)とは何らかの関係があるのだ。1本の映画がとある小説や詩で別の映画に繋がってゆくという辺りの面白さ。映画の良し悪しを断ずるだけにとどまらず、こうやって丁寧に読者の知識や世界観を広げてくれる文章こそが本当の映画評論というものであろう。本書は、雑誌『kotoba』連載をまとめたものということで、町山さんにしては少々真面目な(よそいきな?)文章だなという印象も。時折(ニーナ・シモンのドキュメンタリーのくだりなど)町山さん本来の熱さが顔を出すところも好きだった。




『正太郎名画館』(池波正太郎

 雑誌に連載していた池波正太郎の身辺雑記を抜粋した『正太郎名画館』(2013年)。70年代後半から80年代中番にかけての映画鑑賞の記録となっている。趣味は映画と読書と美食(お酒)という日常が羨ましい。何ら新しい発見(映画の見方を更新されるような)がある訳ではないが、好ましい読み物だった。ちなみに表紙は『テス』のナスターシャ・キンスキー、内表紙は『赤い影』と趣味も合う。


正太郎名画館

正太郎名画館