Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『OHRAI NORIYOSHI EXHIBITION 生頼範義展 THE ILLUSTRATOR』(上野の森美術館)


 映画ファン、SFファンならその絵を知らぬ者の無い偉大なイラストレーター、生頼範義氏の展覧会に行ってきました。東京・上野の森美術館で開催中の『OHRAI NORIYOSHI EXHIBITION 生頼範義展 THE ILLUSTRATOR』。


 会場に入ると、氏が手がけた映画ポスターが壁いっぱいに貼られている。さらに、部屋の中央には氏が表紙を手がけた文庫本が積み上げられたタワーが・・・!しかもこのスペースは「撮影可」。いやあ、この最初の部屋だけで興奮MAXという感じであった。タワーに展示された表紙を詳細に眺めていくと、ああこれ持ってる、読んだことある!という作品がいくつもあった。



 とりわけ嬉しかったのは、これ。平井和正『死霊狩り』シリーズ。




 当時読んでトラウマになりましたよ。作者の筆力はもちろんだが、生褚氏の濃おおおおい表紙イラストとの相乗効果がイメージを何倍にも増加させていたのは間違いない。ポプラ社じゃない方、アダルトな味わいの「江戸川乱歩シリーズ」なんかも、小学生時代に通いつめた古い図書館の記憶が一気に甦りましたね。


 映画ポスターでは、世界的に有名な『スター・ウォーズ/帝国の逆襲』を始め、『ゴジラ』関連、「本編よりもポスターの方が凄い」とその筋では有名な『テンタクルズ』や『メテオ』等の底抜け大作も。『テンタクルズ』なんて大判のものを始めてじっくりと眺めたが、こんなに凄い映画だったっけと改めて呆気にとられるような大迫力。氏の得意とするキャラクターコラージュでシェリー・ウィンタースが2人描かれているという突込みどころもまた味わい深い。他には超カッコいい『マッドマックス2』とか・・・。氏のイラストとは直接関係ない話だが、ドン・コスカレッリ(『ファンタズム』『プレスリーVSミイラ男』)のヒロイック・ファンタジー『ミラクルマスター/七つの大冒険』(1982年)のポスターは、題字が原題ままの『ビースト・マスター』となってるのが展示されていたりして、ヲタ心をくすぐられた。


 映画ポスターや文庫の表紙絵のみならず、広告や図鑑、政治家やスポーツ選手のポートレート、戦記もの等多岐に渡る作品が展示され、生褚氏の作品のバラエティを一望できる素晴らしい企画であった。吉川英治(『三國志』『宮本武蔵』他)、小松左京(『日本沈没』『復活の日』他)、平井和正(『幻魔大戦』『狼の紋章』他)ら作家とのイメージの戦いとでも呼ぶべき濃密なコラボレーションも見ものであった。氏の自画像もあって、これがベニチオ・デル・トロみたいな格好良さ。




 大入りのお客さんたちは、皆楽しそうな表情だったなあ。美術展に行っても普段ならグッズを購入するところまで至らないのだが、今回は興奮のあまりTシャツまで買ってしまった。図版は何かって?アルフレッド・ベスターの『虎よ、虎よ!』ですよ!




 すっかり気分が良くなったので、美術館のハシゴをすることにした。東京都美術館で行われている『ブリューゲル展 画家一族 150年の系譜』へ。ブリューゲルってあのバベルの塔を描いた画家だっけ、とほとんど予備知識の無いままに飛び込んだ。解説によると、ブリューゲル一族というのは16〜17世紀頃のヨーロッパで大きな影響力を持っていたそうで、館内にはブリューゲル一世からその子孫たちに至る9人の画家、また一族と関わりのあった画家たちの作品が展示されている。




 正直のところ、こちらでは作品がどうのこうのというよりも、薄暗くて静かで心休まる美術館の雰囲気を満喫。誰にも邪魔されず自分のペースでゆっくりと館内を歩き回り、名画を味わうこの悦びよ。脳内ではひそかにピノ・ドナジオの音楽が流れてたりして。ってそれじゃ変態か。