Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『キャット・ピープル』(ジャック・ターナー)

キャット・ピープル THE RKO COLLECTION [Blu-ray]

キャット・ピープル THE RKO COLLECTION [Blu-ray]


 たまたま立ち寄った某中古屋でジャック・ターナー監督『キャット・ピープル』(1942年)の廉価版DVDが108円で投げ売りされているのを発見、購入して久々に再見してみた。


 1940年代にRKOのプロデューサー、ヴァル・リュートンが手がけた一連のホラー作品は、殺人鬼やモンスターを直接画面に見せずに、陰影に富んだ画面構成で暗示することで恐怖を煽るのが特徴。低予算を逆手に取ったこのスタイルは、ジャック・ターナーロバート・ワイズ、マーク・ロブスンらの手堅い演出と相まって『キャット・ピープル』『第七の犠牲者』『私はゾンビと歩いた!』『死体を売る男』といったカルト作品を生み出した。その中で最も高い知名度と評価を得ているのが本作『キャット・ピープル』だ。嫉妬や欲望が高まると豹に変身してしまう伝説の猫族の末裔イレーヌ(シモーヌ・シモン)と人間の男性の悲恋を描くお話で、81年にはポール・シュレイダー監督、ナスターシャ・キンスキー主演でリメイクされた。ちなみにリメイク版は我が最愛の女優ナス・キン主演なので、公開当時映画館で見ましたよ。


 夜道で女性が何者かに後をつけられるノワール調の場面、ヒロインがペットショップに入ると動物たちが一斉に騒ぎ出す場面、セルビア・レストランでの結婚披露宴で突然見知らぬ女(猫族)が話し掛けて来る場面、嫉妬に駆られたヒロインが屋内プールで相手を脅す場面、終盤の豹への変身場面・・・。全編に渡り凝った演出が楽しめる。廉価版DVDなので画質はいまひとつだったが、ヴァル・リュートン/ジャック・ターナーのタッチを大いに楽しんだ。


 とはいえ。何しろ70年以上前のクラシック映画なんで、映像美はともかくとして、お話的にはやっぱりいかがなもんかと思うところもあった。特に、結婚しても肉体関係を拒み続けるヒロインに対して、忠誠を尽くす夫の朴訥さは納得しがたいものがあったなあ。実際3分の2くらいまではホラー映画というよりは、性行為によって獣に変身し相手を殺してしまうのではというおかしな妄想に囚われた女とそれを受け入れようとじっと我慢する男の夫婦関係を描いたヘンなメロドラマ、みたいに見えるのだった。


(『キャット・ピープル』 CAT PEOPLE 監督/ジャック・ターナー 製作/ヴァル・リュートン 脚本/ドゥウィット・ボディーン 撮影/ニコラス・ムスラカ 音楽/ロイ・ウェッブ 出演/シモーヌ・シモン、ケント・スミス、トム・コンウェイ、ジェーン・ランドルフ、1942年 73分 アメリカ)