Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『岸辺の旅』(黒沢清)

岸辺の旅

岸辺の旅


 3.11東日本大震災から7年。我々の生活は多数の死者とともにあるということを意識するきっかけとなった出来事だった。その意識は年々強くなっている。恐らく、これから先さらに。災害の話ではなく、ごく日常の(普通の若い夫婦の)話ではあるけれど、この映画もまた死者とともにあることがテーマだったなと。


 黒沢清監督の映画をもう1本、『岸辺の旅』(2015年)について。これは公開時に劇場で見ました。


 3年前に失踪して死んでしまった夫(浅野忠信)が、生前と変わらぬ姿でふらりと妻(深津絵里)の元に帰ってくる。妻は驚きながらも夫を受け入れて、夫が戻ってくるまでの道のりを辿る旅に出る・・・というお話。一歩間違えると目も当てられなくなりそうな設定だと思うが、黒沢監督は抑えたタッチで感動的(そう、本作はとても感動的なのだ)に描き切った。今まで数々の死人や幽霊を描いてきただけあって、各エピソードに登場する様々な幽霊の描き方には迷いがない。新聞配達店の店主(小松政夫)のエピソードなどかなり凄いなあと思った。監督本人もインタビューで言っていたと思うが、●●が●●をおぶって成仏させる、なんて映像は今まで見たことがなかったと思う。


 映像的には同一ショットの中、照明効果であの世から現実への変化を表現したり、演劇に近いような演出もあって新鮮だった。普通の生活を送っている家が、朝になってみると廃墟になっていたりする辺りは黒沢監督の得意分野であろうが、ミゾグチ、なんて名前も連想したりして。


(『岸辺の旅』 監督/黒沢清 脚本/宇治田隆史、黒沢清 撮影/芦澤明子 音楽/大友良英、江藤直子 出演/深津絵里浅野忠信小松政夫村岡希美奥貫薫蒼井優首藤康之柄本明 2015年 128分 日本/フランス)



岸辺の旅 (文春文庫)

岸辺の旅 (文春文庫)