Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『無限の本棚』(とみさわ昭仁) 


 『無限の本棚 増殖版 手放す時代の蒐集論』(筑摩書房)読了。帯のコピーに曰く「ぼくが『蒐集』の文字を使うのは、文字に鬼が棲んでいるからだ」


 著者は神保町の特殊古書店「マニタ書房」の店主であり、ゲームプランナー、ライター、プロコレクター「蒐集原人」、DJマンイーター、日本一ブックオフに通う男・・・、と多彩な顔を持つとみさわ昭仁氏。とみさわ氏を知ったのは、氏が「怪物や動物に人が喰われる映画」を見まくってその戦果を記録したブログ「人喰い映画祭」だった。「人喰い映画祭」は数多ある映画マニアのブログとは一味違うなと思っていて、表題の割にはマニアにありがちなジャンルの約束事への拘泥がそれほど感じられず、かといって馬鹿映画を見て喜ぶ類の後ろ向きな感じもしない。あくまで楽しく人喰い映画の魅力を語るその軽妙さ(フットワークの軽さ)の理由が、本書を読むとよくわかる。


 本書はまず氏の少年時代からのコレクション遍歴(酒蓋、ミニカー、切手、望月三起也の漫画、仮面ライダーカード、映画チラシ、野球カード、ダムカードジッポーライター、陶芸(ぐい飲み)、顔出し看板、歌謡曲や覆面歌手のレコード、ドリフターズのグッズ、映画レーザーディスク、「人が喰われる映画」・・・)が紹介されてゆく。登場する他のコレクターたちの群像とあいまって、それだけでも充分に面白いのだが(「この世に集められていないものなどない」・・・嗚呼、マニアの受難!)、実は本書の主眼はそこではない。氏は様々な事情から、集めては手放してを繰り返し、やがて物欲を超えた「エアコレクター」(!)という境地に至るのだった。本書は他に類を見ない「コレクション論」の一冊であり、モノに対する愛、というよりは、コレクションすることそのものへの愛、コレクションすると言う行為そのものに執りつかれた男の自画像なのだ。


 とみさわ氏ほどの行動力は無いにしても、自分も蒐集癖、しかも「物欲派」より「整理欲派」の強い傾向にあるため、本書はページをめくりながら何度も爆笑と共感を繰り返した。表題である「無限の本棚」へと至る終盤の流れも素晴らしい。時折描かれる家族とのエピソードには泣かされた。近いうち、氏の「無限の本棚」を拝見しに神保町へと足を運んでみようと思う。