Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『EXITENTIALIST A XIE XIE』(THE BEATNIKS)

EXITENTIALIST A XIE XIE

EXITENTIALIST A XIE XIE


 THE BEATNIKS高橋幸宏鈴木慶一)、7年ぶり通算5枚目となるニューアルバム『EXITENTIALIST A XIE XIE』(BETTER DAYSレーベルより5/9リリース)について。まだそんなに聴きこんでいないのでとりとめのない感想になってしまうかもしれないけれど、今のうちに書き記しておきたい。


収録曲は、
 M-1.Crepuscular Rays
 M-2.I've Been Waiting For You  
 M-3.鼻持ちならないブルーのスカーフ、グレーの腕章 
 M-4.Brocken Spectre  
 M-5.ほどよい大きさの漁師の島 
 M-6.Softly-Softly  
 M-7.BEAT印のDOUBLE BUBBLE  
 M-8.Unfinished Love 〜Full of Scratches〜 
 M-9.Speckled Bandages  
 M-10.シェー・シェー・シェー・DA・DA・DA・Yeah・Yeah・Yeah・Ya・Ya・Ya


 全10曲、ニール・ヤングのカバーM-2を除くと、すべて幸宏+慶一両氏の共作(一部作詞でLEO今井氏が参加)。曲が良い、詩が良い、歌が良い(息の合ったコーラス)、演奏は勿論、緻密なアレンジも素晴らしい。社会風刺や深刻な事態を歌った曲もあるけれど、ユーモアでくるみリラックスした演奏で差し出すこの余裕、懐の広さを見よ。


 M-1「Crepuscular Rays」はギターの残響と逆回転の台詞がどうしたってデヴィッド・リンチを連想させるインストゥルメンタル。先のライブではメンバーがシルエットでステージに登場する時に流れていた。一転、熱いギターが唸るM-2「I've Been Waiting For You」はニール・ヤングのカバー(1969年のファースト・ソロ・アルバム収録)。ニール・ヤングの震えるような歌声は幸宏さんと共通しているような気がする。THE BEATNIKSの洋楽カバーはザ・バンド、プロコルハルム、ドノヴァン、ラヴィン・スプーンフルニール・ヤング、とお二人の音楽ルーツを教えてくれるようで興味深い。


 慶一さんの詩は先のソロアルバム以降、ますます独自の路線に突入しているなあと思う。M-3「鼻持ちならないブルーのスカーフ、グレーの腕章」はそんな慶一さんの詩が冴える1曲。昨今の不穏な空気を歌うこの曲は、バカ田大学音楽祭(赤塚不二夫生誕80周年記念)で初披露されたとのこと。TVアニメ「おそ松さん」のED曲をTHE BEATNIKSが手掛けていたりすることもあろうか、本アルバムでは要所要所に赤塚不二夫が顔を出す。最後の歌詞「反対なのだ」なんてのもバカボンのパパっぽい。「何でも反対」って歌ったグルーチョ・マルクスも思い出したり。


 M-4「Brocken Spectre」は、個人的には本アルバムのベストトラック。亡き友、亡き母からの呼び掛けに「そう、まだ音楽を作ってるよ」と答える泣ける曲。本アルバムには他にもM-8「Unfinished Love 〜Full of Scratches〜」、M-9「Speckled Bandages」と美しいメロディ(と繊細極まりないアレンジ)の曲が収録されている。M-9「Speckled Bandages」は歌詞を読んでギョッとした。インタビューによると、慶一さんの書いた歌詞を見て、幸宏さんがミヒャエル・ハネケの『愛、アムール』に言及したという。そう、認知症の夫婦の愛の歌なんだ、これは。


 M-5「ほどよい大きさの漁師の島」はライブで聴いた時にムーンライダーズっぽいなあと感じた曲。ライダーズに船や航海をテーマにした曲が多いからか。こういう切り口でくるのか!と唸らされる社会風刺ソングでもある。THE BEATNIKSの活動再開のモチベーションは「怒り」なのだという。前作『LAST TRAIN TO EXITOWN』がリリースされたのは東日本大震災原発事故の2011年。2018年の現在、2人が何に「怒り」を感じているのかは推して知るべし。「どこの領土かなんて知らない ほどよい大きさの島」だもんね。


 M-6「Softly-Softly」はNHKの音楽番組「J-MELO」のオープニングテーマ。番組では部分的にしか使われていないのでいまいち地味な曲だなくらいの印象であったが、こうしてちゃんと聴くと緻密で美しい曲なんで惚れ惚れ。『ブルー・ムーン・ブルー』辺りから幸宏さんが得意とするアコースティックなサウンドエレクトロニカが乗っているアレンジの完成型という印象も。


 ビートニクを名乗りながらあんまりビートっぽくないTHE BEATNIKS。先のアルバムからやっとストレートにビート詩人たちへのリスペクトを表現するようになった。M-7「BEAT印のBOUBLE BUBBLE」はビート詩人らしい韻を踏んだ歌詞が展開する軽快な曲。「実存のマークに 縁取りはビートで ダブルバブル」って辺りがいいね。


 ラストのM-10「シェー・シェー・シェー・DA・DA・DA・Yeah・Yeah・Yeah・Ya・Ya・Ya」はライブで大盛り上がりだった軽快なロックンロール。赤塚不二夫とポリスとビートルズビーチボーイズトニー谷その他もろもろが邂逅を果たす奇跡のポップソング。ビーチボーイズ風の「inside outside J・A・P」ってコーラスには笑った。


 3枚目のアルバム『M.R.I. Musical Resonance Imaging』(2001年)では、曲のタイトルや歌詞にやたらと「天国」「あの世」「はらいそ」「パラダイス」といった単語が盛り込まれていた。リリース当時、慶一氏50歳、幸宏氏48歳。「あの世」を意識するにはちょいと早いんじゃないのと思ったものだ。さらに17年の時を経ての本アルバムにおいては、詩作にも静謐なサウンドにも一層「死」というものが影を落としているようだ。結成から37年、AOR(大人のためのロック)を超えて、果たしてTHE BEATNIKSはどこまで行くのだろうか。見届けたい。


EXITENTIALIST A XIE XIE [Analog]

EXITENTIALIST A XIE XIE [Analog]