Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『フェリーニのアマルコルド』(フェデリコ・フェリーニ)


 イタリアの巨匠フェデリコ・フェリーニ監督の名作『フェリーニのアマルコルド』を久しぶりに再見。学生時代に見て以来なんで、かれこれ約30年ぶり。当時公開されたウディ・アレンの『ラジオ・デイズ』が『アマルコルド』の影響を受けていると言われていて、『ラジオ・デイズ』を見た後に『アマルコルド』を見たのではなかったかな。なので、なるほどこりゃ似てるわと思いつつ、アッサリシンプルなウディ・アレンの演出に比べてなんかモッサリコッテリしてるなあという印象であった。(そのモッサリ感コッテリ感こそがイタリア映画、フェリーニならではの持ち味、魅力なのだと理解するのはもっと後になってからだった)


 『アマルコルド』は北イタリアの小さな港町に暮らす人々の人間模様をユーモラスに描いたフェリーニの自伝的作品。タイトルの「アマルコルド」とは、舞台となる地方で使われていた方言で「私は覚えている」という意味だとか。一貫したストーリーはなく、少年時代のフェリーニが見て、記憶している出来事、風景や人物が次々とユーモラスにスケッチされてゆく(下ネタ多し)。エピソードのつなぎ役として町の歴史を語るおじさん(カメラ目線で話すのだ)が出てきたりするので、「少年の見た」という辺りがちょっとぼやけている気もするけど。中には父親がファシストたちに捕らえられ拷問されるというひどいエピソードもあるが、ファシストたちもどこか間抜けでのん気に見えるのは、あくまで少年目線で描かれているからだろうと思う。少年とその家族、悪友たち、町一番の美女グラディスカ、木に登り「女が欲しい!」と連呼する気の触れた伯父、個性的な教師たち、盲目のアコーディオン弾き、色情狂の女、煙草屋のおかみ(フェリーニ好みの巨女)、娼婦たち、工事現場のオヤジたち、祭りに集う陽気でお喋りな町の人々・・・。


 正直のところ、フェリーニ特有のゴテゴテした人工的なタッチが苦手なんです。『道』や『甘い生活』なんかは大好きだけど、後期の作品がどうも苦手で。その点『アマルコルド』は、初期作品の率直な人物スケッチと、後期作品の造形美が程よく融合していてとても見やすかった。春の訪れを告げるという綿毛が町中に舞う冒頭から、春のお祭り、葬式、結婚式、夜の港でボートに乗って豪華客船を見送る場面、女性に興味津々の悪友たちが繰り広げる騒動(煙草屋のおかみに巨乳を吸わされるエピソードがケッサク)、家族揃ってのピクニック、雪の降る広場に孔雀が舞い降りる幕切れまで、楽しく鑑賞することができた。何といっても明るくほのぼのした雰囲気を盛り上げるニーノ・ロータの音楽が素晴らしい。


(『フェリーニのアマルコルド』 AMARCORD 監督/フェデリコ・フェリーニ 脚本/フェデリコ・フェリーニトニーノ・グエッラ 撮影/ジュゼッペ・ロトゥンノ 音楽/ニーノ・ロータ 出演/ブルーノ・ザニン、プペラ・マッジオ、アルマンド・ブランチャ、マガリ・ノエル 1974年 124分 イタリア/フランス)