Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『黄金の眼』(マリオ・バーヴァ) 

 マリオ・バーヴァ監督『黄金の眼』(1967年)鑑賞。黒のレザースーツに身を包んだ怪盗ディアボリック(ジョン・フィリップ・ロー)が活躍するアクション映画(原題は危険:ディアボリック)。イタリアの人気コミックの映画化とのことで、我が国の「ルパン三世」を髣髴とさせる荒唐無稽な泥棒映画であった。


 マリオ・バーヴァ監督といえば怪奇映画というイメージがあるけれど、さすがイタリアン・マエストロだけあって実はミステリーも史劇もSFもマカロニウエスタンも撮っている多彩な職人監督だ。ただ、ミステリー(『ファイブ・バンボーレ』)にしてもマカロニウエスタン(『ロイ・コルト&ウィンチェスター・ジャック』)にしても、怪奇映画の端正な画面作りに比べると、同じ監督とは思えないくらいユルい印象がある。本作にしても相当にユルい仕上がりで、お話も怪盗ディアボリックが警察とマフィアを相手に三つ巴の戦いを繰り広げるというほとんどそれだけの他愛のないものだ。なんだけど、個性的なファッションと美術(ディアボリックの秘密基地の仰々しさ)、濃い顔の俳優たちの存在感、コミカルな味付け、要所要所に差し挟まれるチープな特撮、エンニオ・モリコーネ先生の愉快な音楽の効果で、充分に楽しめた。特に音楽は、「モリコーネ先生のサントラを見る」という位に映像と一体化していて(『女性上位時代』が「トロヴァヨーリの音楽を見る」ようだったのと同様)、ファンとしてはそれだけでも楽しかった。1967年と言えば、マカロニウエスタンブームが継続していた頃だから、先生は年に4、5本の映画音楽を手掛けていたはず。本作はハードなギターをかき鳴らすスパイ映画調と、お得意の女性コーラスを駆使したムーディーな楽曲で盛り上げる。時代もあってサイケデリックなクラブの場面なんかもあって、モリコーネ先生なりのサイケ・ロックも楽しめる。(モリコーネ先生は状況音楽も極力既成曲を使わず、自分で全て作ってしまう人) 


 主人公ディアボリックを演じるのはジョン・フィリップ・ロー。目出し帽から覗く眼光が鋭く印象に残る。キャラクターとしては「黒いレザースーツに身を包んだ神出鬼没の怪盗」という以外はほとんど描かれていないので、何を考えているかさっぱり分からんが。ディアボリックのセクシーな相棒はマリーザ・メル。彼女とディアボリックがやたらといちゃつく場面が多い(モリコーネ先生の音楽がその都度盛り上がる)のがイタリア映画ならではだなあと思う。ディアボリック逮捕に執念を燃やす警部はミシェル・ピッコリ。しかしこの人もゴダールからブニュエルからカラックスからバーヴァまでいろんな映画に出てるなあ。


 邦題の意味はラストで判明。この場面ではジョン・フィリップ・ローの眼力が効果を発揮、画面からはバーヴァならではの怪奇映画的なイメージが立ち上るのが興味深かった。


(『黄金の眼』 DANGER: DIABOLIK 監督/マリオ・バーヴァ 脚本/ディノ・マイウリ、ブライアン・ディガス、チューダー・ゲイツ、マリオ・バーヴァ 撮影/アントニオ・リナルディ 音楽/エンニオ・モリコーネ出演/ジョン・フィリップ・ロー、マリーザ・メル、ミシェル・ピッコリアドルフォ・チェリ、テリー=トーマス 1967年・99分・イタリア/フランス)