Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『チャイナ・ゲイト』(サミュエル・フラー)


 サミュエル・フラー監督の未見だった1本『チャイナ・ゲイト』(1957年)鑑賞。第一次インドシナ戦争時を舞台に、フランス外人部隊の戦いを描く戦争映画。主人公ブロック(ジーン・バリー)率いる破壊工作部隊が、混血女性リア(アンジー・ディキンソン)のガイドで敵地のジャングルを潜り抜け、中国国境にある軍需品備蓄基地を目指す。途中までは敵陣突破のサスペンス映画の趣。傭兵たちの人間模様、主人公と元妻であるリアの関係や子供を巡る諍いなどが丁寧に描かれていて、意外なくらいメロドラマ色も強い。終盤に至り、パンチの効いたフラー演出が爆発。戦闘場面や敵陣爆破のクライマックスなどさすがの迫力だ。


 主人公ブロックは妻リアと息子を捨てた過去があり、その理由は息子の風貌が東洋人的だったからというあまりにストレートなもの。白人と有色人種の恋愛という題材は、『東京暗黒街・竹の家』や『赤い矢』などでも描かれており、『鬼軍曹ザック』『最前線物語』などと同様に戦場の子供が物語の上で重要な役割を果たす。


 戦時下の混沌とした状況においてなお己の信念を貫き通すフラー的な人物は主人公ではなくてリアと言えようか。リアを演じるのは、アンジー・ディキンソン。ディキンソンといえばどうも『ビッグ・バッド・ママ』や『殺しのドレス』の年増女のイメージが強いので、若くて芝居どころもふんだんにある本作の役柄は新鮮だった。黒人兵ゴールディを演じるのは歌手のナット・キング・コール。情感たっぷりな主題歌を歌うコールの姿をミュージカル調の演出で映し出す場面があったりして驚く。あくまでさりげない見せ方なのが良い。後半、マカロニウエスタンでブレイクする以前のリー・ヴァン・クリーフが重要な役柄で登場するのも見所だ。


 サミュエル・フラーという監督は、どの映画を見ても(自伝を読んでもインタビュー記事を読んでも)とにかく全て首尾一貫しているという印象がある。本作もまたそんな印象を受ける作品であった。


(『チャイナ・ゲイト』 CHINA GATE 監督・脚本/サミュエル・フラー 撮影/ジョセフ・F・バイロック 音楽/マックス・スタイナーヴィクター・ヤング 出演/ジーン・バリー、アンジー・ディキンソンナット・キング・コール、ポール・デュボフ、リー・ヴァン・クリーフ、ジョージ・ギヴォット 1957年 97分 アメリカ)


ナット・キング・コール・ベスト

ナット・キング・コール・ベスト