Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『バビロン』(デイミアン・チャゼル)

 

 デイミアン・チャゼル『バビロン』鑑賞。

 

 映画黎明期からトーキーに至る、熱気に満ちたハリウッドの群像劇。ネタ的には大好物で、映画製作の楽しさ、そして『バビロン』と題するからにはスターの虚構にまつわるフェティッシュなこだわりを見せてくれるのだろうなと期待。そしたら映画製作が中心のお話じゃなくて、どちらかというと黎明期ハリウッドの退廃と狂乱の描写に力点が置かれた作品だった。それはそれでいいと思うんだけど、参照元であろうケネス・アンガーの著作『ハリウッド・バビロン』にあった吸引力(妄想力)に乏しい。演出には何故か『ブギーナイツ』のスタイルが援用されていて、これがまたあんまり上手くない。あのお話ならば、参照元は『ブギーナイツ』じゃなくてむしろ『甘い生活』、主人公をゴシップ記者にして昼夜問わずハリウッドを駆け回らせて光と影の目撃者にするべきではなかったか。3時間の間、「それは違うんじゃないか!」とか「その撮り方はどうよ?」とか頭の中で突っ込みが渦巻いて退屈する暇が無かった。そういった意味では入場料の元は取れたかもしれないが。

 

 サイレント映画製作のエピソードをもっと見せて欲しかった、酒池肉林の描写がなってない、黒人トランぺッターの立ち位置が不明瞭すぎる、とか色々不満はある訳だが、一番の問題は主人公に全く魅力が無いことだと思う。とても映画の未来を幻視するような人物には見えなかった。後、糞尿やゲロ描写が頻出するが、あれはキャラ描写やユーモアと結びついてないと辛いよ。あの手の描写には耐性があるつもりだったけど、かなりうんざりしてしまった。

 

 マーゴット・ロビーの熱演ぶり、音楽はとても良かったと思う。ブラッド・ピットの寂しげな佇まいもなかなか。ううむ、意余って力足りずか。残念な仕上がりであった。