Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『オーソンとランチを一緒に』(ピーター・ビスキンド)

 

 

 ピーター・ビスキンド著『オーソンとランチを一緒に』(2013年)読了。映画史に燦然と輝く名作『市民ケーン』で知られる映画監督、俳優オーソン・ウェルズ。ウェルズ晩年の語りを記録した貴重な一冊。レストランでのリラックスした会話から、異才の芸術観と人間性、映画作りへの葛藤が伝わってくる。名調子で語られる思い出話の数々には、リアル・ハリウッド・バビロンの趣もあって興味が尽きない。

 

 巻末にはウェルズ関連の作品リストが追記されていて参考になる。ウェルズ作品、中でも『審判』『フェイク』『フォルスタッフ』を見直したくなった。出演リストもタイトル見てるだけで面白い。フライシャー作品が何本もあったり。マカロニウエスタン『復讐無頼 狼たちの荒野』(ジュリオ・ペトローニ)もちゃんと載っていて、演出のアドバイスをしたという表記がある。関連作品では、ウェルズの意とは違った内容のようだが、演劇時代のエピソードを描いた『クレイドル・ウィル・ロック』(監督ティム・ロビンス)が気になった。

 

 晩年のウェルズと頻繁にランチを共にし、レストランでの会話を録音したのはヘンリー・ジャグロムという人物。聞き覚えのある名前だなと思ったら、デニス・ホッパーの映画撮ったあの人かと思い出した。デニス・ホッパーベトナムから戦友の遺体を故郷に運ぶ軍人を演じた『トラックス』(1977年)。映画は微妙な出来だった記憶だが、実は凄い人だったのだな!ジャグロム周りのエピソードも面白くて、全くの新人時代にいきなりウェルズに会いに行ったエピソード、撮影現場で古参スタッフが指示に従ってくれないと困っていたらウェルズが授けてくれたアドバイス(「夢の場面だと言えばいい」)、ウェルズ晩年の企画の資金作りに奔走したエピソード、等々...やがてウェルズ最後の出演作品を撮ることになるのだから凄いなあ。