Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『地獄へつづく部屋』(ウィリアム・キャッスル) 

 

 アマプラにて、ウィリアム・キャッスル『地獄へつづく部屋』(1959年)鑑賞。富豪(ヴィンセント・プライス)から幽霊屋敷に招待された5人の男女が体験する恐怖の一夜を描くホラー映画。

 

 ウィリアム・キャッスルは様々なギミック上映で知られる人物。ギミック上映の様子は、キャッスルをモデルにしたジョー・ダンテ監督の『マチネー 土曜の午後はキッスで始まる』(1993年)で再現されていた。ジョン・グッドマン演じる映画監督があれこれ仕掛けを施して、ティーンの観客たちが盛り上がる様子が実に楽しそうだった。『地獄へつづく部屋』も公開当時はクライマックスで骸骨を飛ばす演出で盛り上げたという。自宅で鑑賞する場合にはもちろんそんなギミックは無い訳で、つまらないのかと思いきや、これが予想以上に面白かった。何しろ怪奇映画らしい映像が良い。

 

 幽霊屋敷の丹念な描写など語りの段取りも非常に丁寧。「ハイここ驚くとこだよ!」と言う感じで繰り出されるショック演出は何とも楽かった。富豪演じるヴィンセント・プライス、語り手のエリシャ・クックが時折カメラ目線をくれたり、カメラに向かって語りかけたりするのが、オリジナルの上映形態を想像させて面白い。

 

 物語的には「幽霊屋敷かと思いきや、実は・・・」と展開していく。そこから逸脱する描写がひとつだけあって、妙に印象に残った。ここは死人が出たと案内された部屋の天井にはシミが残っていて、そこから鮮血が滴り落ちる。登場人物の女性の手に血が付いたのを見て、エリシャ・クックが「マークされてしまった、もうおしまいだ」と怯える。女性はハンカチで拭き取るぐらいで意に介さず先へ進み、そこまで深堀されないエピソードだ。しかし終盤にこれが繰り返され、回収されず宙吊りのままで終わる。これがシンプルながら意外に怖かった。

 

 キャッスルといえば未見の『ティングラー/背すじに潜む恐怖』がすごく気になる。恐怖で背筋がゾッとする時に脊髄に発生する虫を研究するというお話で、まるでクローネンバーグのオリジンのような発想ではないか。