Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

映画感想その5

 昨日の続きです。最近見た映画、または大分前に見たけど感想を書きそびれていた映画について、ここらでまとめて感想を書き記しておきます。


『恐怖のまわり道』(エドガー・G・ウルマー) 

 伝説のフィルム・ノワール。これは噂に違わずとんでもない映画で、あんまり凄いんで唖然としてしまった。地獄へまっしぐらな物語とチープな映像表現が一体化して独自の世界を作り上げている。上映時間67分、極端な低予算で、撮影はたったの6日間で行われたという。故に、主人公の部屋、ハイウェイを捉えた荒々しいロケーション撮影、スクリーンプロセスで撮られた車内、ホテルの一室、ほぼこれだけの場面構成で出来上がっており、ご都合主義と呼ぶのも躊躇われる位に数珠つなぎに不幸な事件が起きる。スクリーンプロセスが多用された画面の異様さと相まって、これほど悪夢の感覚に似た映画はないのではないか。自主映画撮ってた学生時代に見ていたら、きっと丸パクリしていただろうと思う。

(『恐怖のまわり道』 Detour 監督/エドガー・G・ウルマー 脚本/マーティン・ゴールドスミス 撮影/ベンジャミン・H・クライン 音楽/アードディ 出演/トム・ニール、アン・サヴェージ、クラウディア・ドレイク、エドマンド・マクドナルド、ティム・ライアン 1945年 67分 アメリカ)


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『暗黒の恐怖』(エリア・カザン) 

 川本三郎氏の好著『サスペンス映画ここにあり』で紹介されていた1本。『暗黒の恐怖』とは凄まじい邦題だが(原題はPANIC IN THE STREETS)、ホラーではない。ペストが流行=中世ヨーロッパの暗黒時代、という連想だろうか。舞台はニューオリンズ。ペストを罹っていた他殺死体が発見され、48時間以内に犯人を逮捕しないと町に伝染病が蔓延すると、公衆衛生局のリード(リチャード・ウィドマーク)と警察の捜査課長(ポール・ダグラス)のコンビが捜査を開始するが・・・というお話。ニューオリンズの裏通りを捉えたドキュメンタリー・タッチが臨場感を醸しだし、リチャード・ウィドマークジャック・パランスら出演者の存在感も相まって見応えのある映画であった。強面リチャード・ウィドマークは真面目一徹で子育てや家計のことで悩んだりする普通の男という意外な役どころ。本作が映画デビュー作というはジャック・パランスは、長身と落ち窪んだ眼の辺りがどことなく獣というより大蛇を思わせる。小太りでオドオドした手下はゼロ・モステル。ちなみに、本作にはカザンとゼロ・モステルという50年代に吹き荒れた「赤狩り」に巻き込まれてその後の映画人生を狂わされた人物が関わっている。 

(『暗黒の恐怖』 Panic in the Streets 監督/エリア・カザン 脚本/リチャード・マーフィ、ダニエル・フックス 撮影/ジョセフ・マクドナルド 音楽/アルフレッド・ニューマン 出演/リチャード・ウィドマーク、ポール・ダグラス、バーバラ・ベル・ゲデスジャック・パランス、ゼロ・モステル、ガイ・トマジャン、ダン・リス、トミー・クック 1950年 96分 アメリカ)


サスペンス映画 ここにあり

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『情無用の街』(ウィリアム・キーリー) 

 これも川本三郎氏の『サスペンス映画ここにあり』で紹介されていた1本。冒頭、有名なフーバー長官のメッセージが出たり、FBIの最新システムが丁寧に紹介されたり、組織犯罪の取り締まりに向けた政府のプロパガンダ映画っぽい。そこを除けば、ギャング一味にもぐりこんだ潜入捜査官(マーク・スティーヴンス)の戦いを描くごく普通のサスペンス映画であった。ギャングの首領を演じるリチャード・ウィドマークがさすがの貫禄。終盤、首領の射殺と内通者の逮捕を一連の流れで見せる演出が鮮やか。フィルム・ノワール(または潜入捜査もの)の暗い魅力は足りないが、この辺のキビキビとした描写のテンポはなかなか良いなと思う。 

(『情無用の街』 THE STREET WITH NO NAME 監督/ウィリアム・キーリー 脚本/ハリー・クライナー 撮影/ジョー・マクドナルド 音楽/ライオネル・ニューマン 出演/マーク・スティーヴンス、リチャード・ウィドマーク、ロイド・ノーラン、ジョン・マッキンタイア、バーバラ・ローレンス、エド・ベグリー 1948年 91分 アメリカ)




『ロード島の要塞』(セルジオ・レオーネ) 

 1950年代後半から1960年代にかけてイタリア映画界で一大ブームを巻き起こしたローマ史劇の一編で、マカロニウエスタンの巨匠レオーネ監督のデビュー作(当時32歳)。ロード島に実在する巨像要塞を巡る攻防戦。剣劇が見せ場かと思いきや、クライマックスが天変地異によるスペクタクル(特撮あり)だったりして、盛りだくさんな一編であった。後年の悠々たるレオーネ・タッチを期待すると肩透かしだけど、「ローマ史劇、俺ならこうする!」という若きレオーネのやる気満々な演出は充分に楽しめた。主演のロリー・カルホーンは、ローマ史劇のマッチョなイメージからはほど遠く、何を考えているのか良くわからないところなどドル三部作の「名無しの男」的でもある。スタッフのクレジットにはドゥッチオ・テッサリ、ミケーレ・ルーポら後のマカロニ監督たちの名前も。 

(『ロード島の要塞』原題IL COLOSSO DI RODI 監督/セルジオ・レオーネ 脚本/エンニオ・デ・コンチーニ、セルジオ・レオーネ、ルチアーノ・マルチーノ、ドゥッチオ・テッサリ 撮影/アントニオ・バレステロス 音楽/アンジェロ・フランチェスコ・ラヴァニーノ 出演/ロリー・カルホーン、レア・マッセリ、ジョルジュ・マルシャル、コンラード・サン・マルティン タール 1961年 131分 イタリア・スペイン・フランス)


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『奴らを高く吊るせ!』(テッド・ポスト) 

 セルジオ・レオーネ監督のマカロニウェスタンでスターになったクリント・イーストウッドがハリウッドへ凱旋、自らのプロダクション「マルパソ・カンパニー」を立ち上げての第1作。暴力描写はマカロニ以降という感じで荒々しい。(何しろ冒頭から主人公がリンチされ、吊るし首にされてしまうのだ)監督は『ダーティハリー2』のテッド・ポスト。そういえば『ダーティハリー2』も法規を逸脱した過激な自警団を扱っていたなと思う。映画としては小ぢんまりとした規模だが、テーマは明確で、登場人物の顔つきも良いし、苦いお話も良いし、自らのプロダクションを立ち上げての第1作ということで、イーストウッドの意欲が感じられる野心作といえるだろう。

(『奴らを高く吊るせ!』 HANG 'EM HIGH 監督/テッド・ポスト 脚本/レナード・フリーマン、メナ・ゴールドバーグ 撮影/レナード・J・サウス、リチャード・H・クライン 音楽/ドミニク・フロンティア 出演/クリント・イーストウッド、インガー・スティーブンス、エド・ベグリー、パット・ヒングル、ベン・ジョンソンブルース・ダーン 1968年 114分 アメリカ)


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 この項続く。