Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』(マーティン・スコセッシ)

 

 

 マーティン・スコセッシ最新作『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』鑑賞。監督スコセッシ+主演レオナルド・デカプリオ6度目のコンビ作。206分の長尺と聞いて、これは気合い入れないと無理だなと思い、休日の朝イチ劇場へ。この長いカタカナタイトルなかなか覚えられなくてつい『キリング・ムーン 』って言っちゃう。

 

 1920年代のアメリカ、オクラホマ州。オイル・マネーで裕福な先住民オーセージ族と、その富を狙う白人たち。アメリカの暗部を描くヘヴィな物語だ。デヴィッド・グランによる原作『花殺し月の殺人 インディアン連続怪死事件とFBIの誕生』は未読。解説によると原作は捜査官が主人公のミステリーのようだ。複雑な事件の概要を捜査官側(外側)から描くのではなく、犯人サイドから描くというのは映画の脚色とのこと。悪魔的な存在にそそのかされるがままに悪事に手を染めた主人公の贖罪にフォーカスしていく後半などいかにもスコセッシらしいテーマが浮かび上がってくる。スコセッシの見事な演出で206分の長尺も気にならなかった。

 

 先住民オーセージ族の葬儀から始まり、石油の噴射、富を得るオーセージ族の様子を見せるニュースリール、街へ集まる人々の中に主人公・・・という流れを一気に見せる冒頭は、『カジノ』を思い出すドライブ感。何度も出て来る陰惨な殺しの場面は必ずワンカットでキメるスコセッシの徹底ぶりには痺れた。終盤、登場人物たちのその後を「聴かせる」趣向が鮮やかだ。最後は監督本人が登場して見事に締めてみせる。

 

 後ろめたさ全開のモソモソした喋り方とへの字の口元でクズ男を演じるデカプリオ。悪魔的微笑みで周囲を威圧する顔役のロバート・デ・ニーロ。堂々たる存在感で実質的な主人公モリーを演じるリリー・グラッドストーン。画面を行き交う登場人物たちの多様な顔の面白さを見ているだけで全く退屈しなかった(ジョン・リスゴーが出てきたのにはびっくり!)。

 

 時代色の再現、田舎町の風景など見事な美術は『天国の日々』等のジャック・フィスク。音楽は先日亡くなったロビー・ロバートソン。これまでロビー・ロバートソンはスコセッシ作品にテーマ曲+時代色を再現する選曲で関わっていたと思うが、本作ではブルージーな劇伴も担当しており、これが凄く良かった。本作が遺作ということになるのかな。映画のエンディングでは献辞が掲げられている。