THE BEATNIKS(高橋幸宏+鈴木慶一)の最新アルバム『LAST TRAIN TO EXITOWN』。結成30年、前作『M.R.I.』から実に10年ぶりの新作となる。彼らは過去のインタビューで「(THE BEATNIKSとしての活動再開は)何かに怒りを感じたとき」だと発言していたっけ。ならば2011年の活動再開に於いてはいかなる「怒り」を原動力にしているのであろうか。まあ今年は色々ありすぎてなあ。マトモな神経の持ち主なら怒りで燃えつきちゃうくらい色々と。
これまでのアルバムでは、これは幸宏氏の曲、これは慶一氏の曲、とある程度分かれていた。今回はほとんど「作詞・作曲:YUKIHIRO TAKAHASHI+KEIICHI SUZUKI」と連名で表記されている。2人のこれまで以上に密接なコラボレーションが伺える。
収録曲は、
M-1. A Song for 4 Beats
M-2. Ghost of My Dream
M-3. Go and Go
M-4. 戸棚の中のグロテスク Gromanesque in The Closet
M-5. カットアップだ!我らの実存 Cut Up Our Existence
M-6. つらい僕の心 Didn’t Want To Have To Do It
M-7. Camisa De Chino
M-8. Come Around The Bends
M-9. Around The Bends
M-10. 最終出口行き Last Train to Exitown
前作『M.R.I.』の重い雰囲気から、次はどんな感じになるのだろうかと若干心配であった。そしたらサウンドはセカンド・アルバム『EXITENTIALIST A GO GO 』を思わせる穏やかな歌もの路線。M-1で幸宏氏のヴォーカルが始まった瞬間に撃沈されたファンは私だけではあるまい。しかも、今回は曲がとてもいいんだ。
アルバムのテーマはファースト『出口主義』のその後を描くもの。各曲に共通のキーワードを散りばめて、トータル・アルバムとして見事な完成度を誇っている。「出口なし」の閉塞感に喘いでいた80年代初頭から30年。彼らは今でも出口を模索し続けているのだ。
これまでのアルバムでは、ビートニクスを名乗りながら本家ビート作家たちへの言及はほとんど皆無であった。今回は初めて本家ビート作家たちへの想いがそこかしこに散りばめられている。ビート作家や小説の登場人物の名が綴られたM-1、バロウズよろしくカット・アップの手法で歌詞を作成したというM-5(デヴィッド・リンチの映画で不穏に鳴り響いているようなオールディーズ調のアレンジが施されている)。メロウなM-6はラヴィン・スプーンフルのカヴァー。ラヴィン・スプーンフルのジョン・セバスチャンはビートニクの本拠グリニッチ・ヴィレッジで活動していたミュージシャンだ。ちなみにM-6は心病み系の歌詞と言いメロディといい歌唱といいまるでオリジナルかと思うようなハマりっぷり。
インスト曲M-8は何故か朝焼けを思わせる。その朝焼けの光は、インターゾーンがあるタンジールの猥雑な市場か、長距離ドライヴの果てに車から降りて眺めたアメリカ西部の荒野か、コートの襟を立てて歩く凍てついたN.Y.グリニッチ・ヴィレッジか、はたまた震災後の人影の見えない海岸線か、それとも東京の地下スタジオから出た路上に差す朝日なのか。
含蓄のある歌詞も、息の合ったデュエットも、優しいメロディも、さりげなく凝った音響も、何もかも素晴らしい。今年はこれで生きていけると思う。
- アーティスト: THE BEATNIKS
- 出版社/メーカー: EMIミュージックジャパン
- 発売日: 2011/10/12
- メディア: CD
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