Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『イスタンブール・マンボ Istanbul mambo』(ムーンライダーズ)


 1977年10月リリースのセカンド・アルバムイスタンブール・マンボ Istanbul mambo』。宣伝コピーは「6人のナイス・タフ・ガイが今宵誘う」というもの。今見ると「なんじゃそりゃ」と言いたくなるような珍コピーだなあ。ライダーズにはマッチョ・イメージが皆無なので「ナイス・タフ・ガイ」って言われても誰のこと?ってな感じ。しかも「今宵誘う」って・・・。レコード会社宣伝部の試行錯誤が見えるようだ。


 「6人のナイス・タフ・ガイ」は、鈴木慶一岡田徹武川雅寛白井良明かしぶち哲郎鈴木博文。本作で現メンバーが揃い、以来一度もメンバーチェンジなく現在に至っている。


 収録曲は、


 M-1.「ジェラシー」(作詞/鈴木博文 作曲/鈴木慶一
 M-2.「週末の恋人」(作詞/鈴木博文 作曲/岡田徹
 M-3.「さよならは夜明けの夢に」(作詞/鈴木博文 作曲/岡田徹
 M-4.「ビューティコンテスト」(作詞/鈴木慶一 作曲/岡田徹
 M-5.「女友達(悲しきセクレタリー)」(作詞・作曲/鈴木慶一
 M-6.「Beep Beep Be オーライ」(作詞・作曲/橿渕哲郎)
 M-7.「ウスクダラ」(訳詞/橿渕哲郎 トルコ民謡)
 M-8.「イスタンブール・マンボ」(作詞/鈴木慶一・橿渕哲郎 作曲/Nat Simon)
 M-9.「ブラッディマリー」(作詞/鈴木博文 作曲/岡田徹
 M-10.「ハバロフスクを訪ねて」(作詞・作曲/橿渕哲郎)
   (アナログ盤では、M-1〜5がSIDEA、M-6〜10がSIDEB)


 M1〜5(アナログ盤のA面)はシングル・カットされたM-1「ジェラシー」を始めとして、いわゆるAORというかシティ・ポップス調の曲が続く。中でも、作詞/鈴木博文+作曲/岡田徹コンビのM-3は名曲中の名曲。M-2は珍しく岡田氏がリード・ヴォーカルを担当、トム・ウェイツ風のダミ声を聴かせてくれる。A面を聴いて、今回はスティーリー・ダン的と言うか、大人向けのロック路線なのか、成る程「ナイス・タフ・ガイが今宵誘う」か(しつこい)・・・と思いきや、アルバムは後半になって突如ねじれ出す。


 M-6〜10(アナログ盤のB面)では、めくるめくエキゾチック路線が全面展開。これこそ本作の聴きどころである。個人的なベスト・トラックはM-7「ウスクダラ」〜M-8「イスタンブール・マンボ」かな。サウンドは想像上の異国というような胡散臭い雰囲気を醸し出している。探偵映画風だったりスパイ映画風だったり、ユーモアを漂わせた物語性の高い歌詞も聴きどころだ。最後はハバロフスクまで行っちゃうんだからなあ。M-9はA面に入ってもよさそうなアダルト路線だけれど、大仰な(プログレ風?)アレンジが生きて上手くB面に収まっている。


 本作はA面、B面がくっきりと分かれているようで、アルバム全体の統一感という意味では、全部エキゾチック路線でも良かったのではないかなあと思ったりもする。前作のB面曲と本作のB面曲を合わせ、エキゾチック路線の編集盤を作るのも面白そうだ。マニアは既にやっているかも。
 

 ファンの中にはご覧になった方もいるかと思うけれども、『純』(1980年、監督横山博人)という映画には本作から数曲が使用されている。何と、痴漢青年を主人公にした異色の青春映画。本作から「週末の恋人」と「女友達(悲しきセクレタリー)」が使われていた。内容とリンクしている訳でもなく、映像に合っている訳でもなく、ヒット曲じゃないので80年という時代を表す訳でもなく・・・何とも珍妙な感じであった。何故ライダーズの曲が?と言えば、多分製作者の趣味、としか答えようのないチョイスなのであった。ライダーズの曲が映画に使われるなんて貴重と言えば貴重なんだけど、あれはちょっとなあ・・・。


Istanbul mambo

Istanbul mambo