ムーンライダーズのサード・アルバム『ヌーベル・バーグ NOUVELLES VAGUES』(1978年12月リリース)。宣伝コピーは「'80年代への予感!ヨーロッパ・ロックシーンを彷彿させる確かなグループ。」というもの。ううむ、このアルバムを上手く言い当てているようないないような・・・。メンバーが顔を揃えたジャケットは、ライダーズ史上一番普通のデザインなんじゃなかろうか。6人の気取った表情がくすぐったい。
収録曲は、
M-1.「スイマー」(作詞・作曲/鈴木慶一)
M-2.「ドッグ・ソング」(作詞/鈴木博文 作曲/岡田徹)
M-3.「アニメーション・ヒーロー」(作詞/新井満・鈴木博文 作曲/鈴木慶一)
M-4.「マイ・ネーム・イズ・ジャック」(訳詞/鈴木慶一 作曲/John Simon)
M-5.「スタジオ・ミュージシャン」(作詞/鈴木博文 作曲/岡田徹)
M-6.「ジャブ・アップ・ファミリー」(作詞/鈴木博文・鈴木慶一 作曲/岡田徹・鈴木博文・鈴木慶一)
M-7.「いとこ同士」(作詞/鈴木博文 作曲/岡田徹)
M-8.「夜の伯爵/The Night Count」(作詞・作曲/鈴木慶一)
M-9.「オールド・レディー」(作詞・作曲/橿渕哲郎)
M-10.「トラベシア」(訳詞/橿渕哲郎 作曲/Milton Nasciment)
(アナログ盤では、M-1〜5がSIDEA、M-6〜10がSIDEB)
楽曲は、親しみやすい歌詞とキャッチーなメロディーでとても聴きやすい。初期のアルバムの中では最もポピュラリティがあると思われる。すまし顔でいささか硬い雰囲気だったファースト・アルバムに比べ、ユーモラスでリラックスしたムードが横溢しているのが特徴だ。歌詞の内容は、ファースト・アルバム、セカンド・アルバムに続いて物語性の高いものばかり。私小説的なM-5にしてもどこかロマンティックな虚構性を感じさせるものだ。慶一氏は当時ケネス・アンガーの名著『ハリウッド・バビロン』を読んだそうで、歌詞の世界観にはそんな頽廃ムードもちゃんと隠し味になっている。
M-1、M-7は映画からインスピレーションを受けたタイトル。ニューシネマの佳作『泳ぐ人』やクロード・シャブロル『いとこ同志』はどちらも屈折していて、とてもライダーズっぽいチョイスだ。ところが、M-1、M-7どちらもオリジナルの映画よりストレートな内容になっているのが面白い。良明氏のギターと武川氏のバイオリンがバトルを繰り広げるM-1の熱っぽさには、彼らの若さが感じられる。
ライダーズ初のテクノM-7「いとこ同士」は本作のポイントとなる重要曲。後年のベスト盤『BEST OF LUCK!』の解説で漫画家の江口寿史氏が「イントロが始まった瞬間、部屋の空気が変わった」と記していた。今でこそポップ・ソングとエレクトロニカは当たり前のように結びついているけれど、この当時はまだ斬新だったのだ。YMOのプログラマーであった松武秀樹氏による打ち込みとハリー細野氏のスティール・ドラム(つまり、ライダーズメンバーの演奏はなし)というサウンドは、宣伝コピー通り「'80年代への予感!」を強く感じさせるものだ。勿論、アレンジの斬新さだけではなく、曲も良いです。
個人的なベスト・トラックは、ジョン・サイモンのカヴァーM-4「マイ・ネーム・イズ・ジャック」かな。この曲はジョン・サイモンのオリジナル、マンフレッド・マンのカヴァー、そしてライダーズのカヴァー、どれも可愛らしくて大好き。ミルトン・ナシメントのカヴァーM-10「トラベシア」も素晴らしい。M-4、M-10ともにまるでライダーズのオリジナルみたいに馴染んでいる。
初期ムーンライダーズのドリーミーで伸びやかな雰囲気はこのアルバムを最後に姿を消す。初期ライダーズのファンはここまでという人もいるようだ。ニューウェーヴ期の到来とともに、ライダーズのサウンドは一気に翳りを帯びたものに変貌してゆく。
- アーティスト: ムーンライダーズ
- 出版社/メーカー: 日本クラウン
- 発売日: 2006/10/25
- メディア: CD
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