Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『マニア・マニエラ MANIA MANIERA』(ムーンライダーズ)


 ムーンライダーズは1981年にクラウンからジャパン・レコードへ移籍。移籍第1弾アルバムは『マニア・マニエラ』・・・になるはずであった。しかし、レコード会社から「難解すぎる」「これでは売れない」と評されたため、メンバー自ら発売中止を決定したといういわくつきの1枚。結局『マニア・マニエラ』は、当時まったく普及していなかったCDで1982年12月にリリースされた。1984年9月には冬樹社からカセット・ブックで発売、正式にレコードでリリースされたのは1986年2月のことであった。


 収録曲は、


 M-1.「Kのトランク」(作詞/佐藤奈々子 作曲/岡田徹
 M-2.「花咲く乙女よ穴を掘れ」(作詞/糸井重里 作曲/鈴木慶一
 M-3.「檸檬の季節」(作詞/佐藤奈々子 作曲/鈴木慶一鈴木博文武川雅寛
 M-4.「気球と通信」(作詞・作曲/橿渕哲郎)
 M-5.「バースディ」(作詞/佐伯健三 作曲/白井良明
 M-6.「工場と微笑」(作詞・作曲/鈴木博文
 M-7.「ばらと廃物」(作詞/鈴木博文 作曲/岡田徹
 M-8.「滑車と振子」(作詞・作曲/鈴木博文
 M-9.「温和な労働者と便利な発電所」(作詞/鈴木慶一 "発電所"/太田螢一 作曲/ムーンライダーズ
 M-10.「スカーレットの誓い」(作詞/橿渕哲郎 "薔薇"/佐藤奈々子 作曲/橿渕哲郎)
  (アナログ盤では、M-1〜5がSIDE A、M-6〜10がSIDE B)


 『マニア・マニエラ』は全編にコンピュータを導入、メンバーが互いに担当楽器を交換するなどあの手この手の実験的なレコーディングが行なわれ、ライダーズのテクノ/ニュー・ウェイヴ路線の代表作というべきアルバムに仕上がっている。初めて聴いた時は完成度の高さに驚きつつも、いささか息苦しさを覚えたものだった。トーキング・ヘッズで言えば『リメイン・イン・ライト』みたいな。現在聴き返してみると、メタリックなサウンドに、本来相反するイメージであるはずの叙情性やユーモアが巧みに溶け込んでいるのが実に面白いなあと思う。「工場と労働者」を題材にしたコンセプト・アルバムだけど、まるで近未来を描いたSF映画みたいな世界観が楽しい。ちっとも難解じゃないです。


 本アルバムのキーワード「薔薇がなくちゃ生きていけない」を高らかに謳いあげるM-10「スカーレットの誓い」は、ライヴでも定番だった名曲。糸井重里氏作詞のM-2「花咲く乙女よ穴を掘れ」は「滑車と振子」とカップリングでシングルカットされている。アルバムに納まると労働歌みたいだけど、SMの歌のようにも聴こえる含みの多い曲だ。キャッチーな「スカーレットの誓い」ならともかく、これをシングルカットしようというヒネクレぶりには今さらながら驚かされる。個人的なベスト・トラックはM-6「工場と微笑」かな。M-9「温和な労働者と便利な発電所」も好きだけど、今時は何やら意味深に聴こえる曲だ。


 『マニラ・マニエラ』から『DON'T TRUST OVER THIRTY』に至る80年代のアルバムは、バンドとしての一体感が素晴らしい。どれを聴いてもムーンライダーズならではという特別なサウンドに仕上がっていると思う。勿論90年代以降のアルバムも素晴らしいけれど、次第に個人色が強くなってゆくような印象がある。バンドとしての強みが最も発揮されていたのがこの時期のアルバムではないだろうか。



マニア・マニエラ

マニア・マニエラ