Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『鳥はいまどこを飛ぶか』 (山野浩一傑作選1)

鳥はいまどこを飛ぶか (山野浩一傑作選?) (創元SF文庫)

鳥はいまどこを飛ぶか (山野浩一傑作選?) (創元SF文庫)



 雑誌「季刊NW−SF」創刊やサンリオSF文庫監修など、日本のニュー・ウェーヴSFに創作と評論両面で足跡を残した伝説の作家・山野浩一。現在は創作活動から退き、競馬評論家として活躍しているという氏の傑作群を復刻した短編集『鳥はいまどこを飛ぶか』が出た。寡聞にして今まで読んだことがなかったので、期待して読み始めた。


 視界を横切る見慣れぬ鳥を追う内に時空を超え、世界の崩壊を垣間見る「鳥はいまどこを飛ぶか」。X列車と呼ばれる幽霊列車が縦横無尽に走り回り、人々を恐怖に陥れる「X電車で行こう」。リストラされた男が、生首を集める謎の組織にスカウトされる「首狩り」。会社を休んで登山をする主人公が異世界へと迷い込む「霧の中の人々」。ほか、不安と驚きに満ちた全10編が収録されている。


 平凡な日常を送る主人公(サラリーマン)が、いつの間にか異世界に迷いこむというパターンが多かった。面白いなあと思ったのは、主人公が異世界から必死で脱出を試みたりせず、何となく順応してしまうところ。異様な仕事や状況すら日常と化してしまうのだ。淡々としているだけに、読んでいて余計不安が募るという感じだった。


 奇想が炸裂する「鳥はいまどこを飛ぶか」や「X電車で行こう」はエンターテイメントとして距離感を持って楽しめたけれど、「虹の彼女」や「霧の中の人々」はちょっとシンクロし過ぎというか、直接頭の中を覗かれているような気がしてヤバかった。特に「虹の彼女」は・・・。ローリングストーンズの『Their Satanic Majesties Request』を久しぶりに聴き返したくなったよ。


 SF小説は好きなんだけれど、個人的にファンタジー色の強い異世界ものや、遠い外宇宙を舞台にしたハードSFなどはちょっと苦手だ。日常生活と地続きのSFがいいなあと思う。よって、我が最愛のSF作家は安部公房J・G・バラードである。山野浩一氏の短編集『鳥はいまどこを飛ぶか』は正にそんな嗜好にぴったりの一冊であった。傑作選2『殺人者の空』も楽しみだ。


サタニック・マジェスティーズ

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