Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『マニアの受難 PASSION MANIACS MOONRIDERS THE MOVIE』(白井康彦)


『マニアの受難 PASSION MANIACS MOONRIDERS THE MOVIE』

 監督/白井康彦
 出演/MOONRIDERS細野晴臣高橋幸宏あがた森魚PANTAサエキけんぞう松武秀樹
  (2006年・100分・日本)


 2006年に30周年を迎えたムーンライダーズ。4月30日には日比谷野音で30周年記念ライヴ『vintage moon festival』を行った。前座はムーンライダーズのカヴァーバンド架空楽団。「くれない埠頭」の途中から本家ムーンライダーズのメンバーが登場して演奏を引き継ぐという演出だった。ライヴはThe BANDのLast Waltzよろしく、次々とゲストが登場して歌い繋いで行くというスタイルで進行。2005年のツアーでは体調不良で不参加だったかしぶち哲郎氏も無事参加(坂田学とのツイン・ドラム体制)で一安心。演奏曲とゲストはこんな感じ。


 01)「くれない埠頭」(架空楽団から引継ぎ)
 02)「大人の悩みに子供の涙」(みうらじゅん
 03)「鬼火」(みうらじゅん
 04)「Frou Frou」
 05)「30(30Age)」
 06)「BTOF」(feat.青山陽一
 07)「青空のマリー」(feat.サエキけんぞう
 08)「ボクハナク」(feat.カーネーション直枝&大田)
 09)「工場と微笑」(feat.カーネーション直枝&大田)
 10)「My Name Is Jack」 (feat.野宮真貴) 
 11)「大人の悩みに子供の涙」(feat.ポカスカジャン
 12)「スカンピン」(曽我部恵一
 13)「空から降ってきた卵色のバカンス」(feat.原田知世
 14)「大寒町」(feat.あがた森魚
 15)「赤色エレジー」(feat.あがた森魚
 16)「塀の上で」(feat.遠藤賢司
 17)「ビートルズをぶっとばせ」(遠藤賢司
 18)「くれない埠頭」(feat.PANTA
 19)「9月の海はクラゲの海」(feat.高橋幸宏
 20)「夢ギドラ'85」
 21)「週末の恋人」
 22)「バーレスク
 23)「マスカット・ココナッツ・バナナ・メロン」
 24)「冷えたビールがないなんて」
 25)「BEATITUDE」
 26)「Don't Trust Anyone Over 30」
 アンコール
 27)「Acid Moonlight」 


 おじさんたち元気一杯、演奏も力強かった。あがた森魚高橋幸宏、PANTA、サエキけんぞうエンケンからみうらじゅんに至る豪華ゲストの大量参加も嬉しく、至福の時を過ごすことが出来た。


 12月には、30周年の締め括りとしてドキュメンタリー映画『マニアの受難 PASSION MANIACS MOONRIDERS THE MOVIE』が公開された。(テアトル新宿にてレイトショー)舞台挨拶もあるとの事で初日に駆け付けた。舞台挨拶には監督と、慶一、博文、武川各氏が参加。慶一氏と武川氏はありゃ絶対酔っ払ってたなあ。顔が赤いし、話っぷりもヘンだった。


 映画はモノクロの映像もなかなかで興味深い仕上がり。ライダーズは(公開当時)活動30周年という恐らく日本最古の現役ロックバンドであるが、誰しも知ってるヒット曲は無い。映画はレコード会社の歴代ディレクターにインタビューし、売る側の苦闘も描き出す。予算を掛けて外部プロデューサーを起用したいというディレクターの申し出を断り、「最大のチャンスを逃しましたね」と言われたエピソードは苦い。また「日本語のロック」先輩・細野晴臣、盟友・あがた森魚、PANTA、高橋幸宏らのコメントでバンドを持続する事の難しさを浮き彫りにする。時折挿入される羽田の風景もまた良し。日比谷野音のLIVE映像はもっと見たかったぞ。エンディングに流れる映画用の新曲「A Song For All Good Lovers」(作詞/鈴木慶一 作曲/E.D. MORRISON)がまたかっこよかった。


 しかしまあファンなら誰しも「俺ならこう撮る、こう編集する」と思うの必至で、これぞ「マニアの受難」、ライダーズファンの事なんだな。ちなみに、件の曲にはこんな歌詞もある。


 ♪もうすべてのことは一度行われている すべての土地はもう人が辿り着いてる


 メンバー全員が年季の入ったマニアだから、新しいものなんてそうそう無いなんて事は百も承知だ。それでも何故彼らが30年もやり続けてこれたのか、その理由が、そして歓びと哀しみが垣間見える興味深いドキュメンタリーだと思う。活動休止宣言をした今見直すと、また新しい発見がありそうだ。