Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『初音ミク plays 月光下騎士団(ムーンライダーズ)』

初音ミク plays 月光下騎士団(ムーンライダーズ)

初音ミク plays 月光下騎士団(ムーンライダーズ)


 ムーンライダーズのカバー、トリビュート盤というのはありそうで意外に少ない。及川ミッチーの「ボクハナク」とか、トリビュート・アルバム『Moon Bossa』とか・・・。個人的には、直枝政広氏による「Don't Trust Anyone Over30」(『Moon Bossa』収録)、曽我部恵一氏による「スカンピン」(30周年記念コンサート)が印象深い。直枝・曽我部両氏の歌唱力もあって、ライダーズへのリスペクトと曲の良さがストレートに伝わってくる素晴らしいカバーだったと思う。


 さて、音声合成ソフト「初音ミク」でムーンライダーズの曲をカバーした初音ミク plays 月光下騎士団(ムーンライダーズ)』が登場。プロデュースはplusico (Thomas O'hara、Hideaki Kuroda)。企画を聞いた時は、案外上手くハマるんじゃないかと思った。メンバーがプロデュースで関わったアイドルのアルバムも多数あることだし、あんな感じになるのかなと。テクノ歌謡というか。


 収録曲は、


 M-1.「ヴィデオ・ボーイ」
 M-2.「いとこ同士」
 M-3.「Sweet Bitter Candy」
 M-4.「G.o.a.P.(急いでピクニックへ行こう)」
 M-5.「Don't Trust Anyone Over30」
 M-6.「青空のマリー」
 M-7.「A FROZEN GIRL, A BOY IN LOVE」
 M-8.「Frou Frou」
 M-9.「砂丘
 M-10.「紅いの翼」
 M-11.「トンピクレンッ子」
 M-12.「くれない埠頭」
 M-13.「EIGHT MELODIES」
 M-14.「涙は悲しさだけで、出来てるんじゃない」

 
 青春ソングっぽい路線の「Sweet Bitter Candy」「青空のマリー」、弾けたテクノ・ポップ路線の「ヴィデオ・ボーイ」「トンピクレンッ子」などは上手くハマっていて楽しく聴けた。初期の名曲「紅いの翼」「砂丘」や若干マイナーな「A FROZEN GIRL, A BOY IN LOVE」 あたりが選曲されているのがマニアック。上手くハマりそうな「マスカット・ココナッツ・バナナ・メロン」はあえて外したのかな。個人的には「気球と通信」「二十世紀鋼鉄の男」なんかやって欲しかったところ。


 注目すべき点は「G.o.a.P.(急いでピクニックへ行こう)」「Don't Trust Anyone Over30」「涙は悲しさだけで、出来てるんじゃない」など中年男の心情を描いた曲が選ばれている事。萌えな女性ヴォーカルで歌われるのが中年男の屈折した心情(人称は「僕」)・・・というのは企画としては面白いけれど、あんまり上手くいっていない気もする。


 こうしてヴォーカロイドによるカバー・バージョンを聴いていると、慶一氏の不安定なヴォーカルやメンバーの演奏がいかに個性的で人間味溢れるものだったか、逆に良く分かる。さておき、このアルバム経由でムーンライダーズを知って、新たなファンになる人が増えたらいいなと思う。