Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『シーシック・セイラーズ登場!』(鈴木慶一)


 曽我部恵一プロデュースによる「ヘイト船長三部作」の第二弾『シーシック・セイラーズ登場!』(2009年)。前作『ヘイト船長とラヴ航海士』では、50代となった慶一氏の心境を反映した幾分シリアスな世界観が全編を覆っていた。今回は何とロック・オペラ! 架空のラジオ放送という(何やら懐かしい)形式で、ラジオ局のジングルやスポンサーのCMが入ったりする。物語の基本設定(下記参照)は解ったようで何が何だかさっぱり理解不能(笑)。彼の楽曲のバラエティと、多分に妄想が入り込んだ物語世界が溢れ出ている感じ。アルバム全体的には幾分取りとめが無くて冗長に感じられる部分もあるけれど、慶一氏本来のユーモラスな感覚が復活しているのが嬉しい。


 時は5001年の東京。世界は大部分が水没し、残された陸地は謎の大企業Yノーズ社に牛耳られている。ヘイト船長とラヴ航海士は、仲間のオーシャン・チャイルド、ピースtheK、ヴォヤージ・マンらとシック・パイレーツというバンドを結成。元格闘王バーン・ベノワの経営するレストラン「シック・セイラー」で演奏をしている。いつかラジオに出る事を夢見ながら・・・。


 収録曲は、


 M-1.「シーシック放送開始」(作詞・作曲/鈴木慶一
 M-2.「東京5001」(作詞/Wk1 作曲/The Seasick Sailors)
 M-3.「不戦戦艦シーシック号」(作詞/鈴木慶一 作曲/The Seasick Sailors)
 M-4.「Da Da Da」(作詞・作曲/鈴木慶一
 M-5.「我が名はバーン」(作詞・作曲/鈴木慶一
 M-6.「ワイノーズ社「Indy」CM キャンペーン編」(作詞・作曲/鈴木慶一
 M-7.「スクラップ環礁 (廃艦第5号環礁)」(作詞・作曲/鈴木慶一
 M-8.「シーシック放送、再び」(作詞・作曲/鈴木慶一
 M-9.「水の中のRADIO」(作詞/曽我部恵一 作曲/鈴木慶一
 M-10.「組曲、かつて上港と呼ばれた港〜格闘王バーン・ベノア」(作詞・作曲/鈴木慶一
 M-11.「Chic Piratesよ、永遠なれ」(作詞/鈴木慶一・Peace-K 作曲/Peace-K)
 M-12.「悲しきタンバリン」(作詞・作曲/鈴木慶一
 M-13.「愛の瞬間」(作詞/曽我部恵一 作曲/上野洋子
 M-14.「組曲、僕は….0〜51世紀最初の恋の歌」(作詞・作曲/鈴木慶一曽我部恵一
 M-15.「シーシック放送は永遠か?」(作詞・作曲/鈴木慶一
 M-16.「ワイノーズ社「Indy」CM 求人編」(作詞・作曲/鈴木慶一
 M-17.「物恋うWaltz」(作詞・作曲/鈴木慶一
 M-18.「FMとAMの間のゴースト」(作詞・作曲/鈴木慶一
 M-19.「放送終了」(作詞・作曲/鈴木慶一


 前作『ヘイト船長とラヴ航海士』はWケイイチ2人だけの作業だったようだが、今回は新バンド、シーシック・セイラーズによるレコーディングが行われている。バンド編成になったからといって音が分厚くなったとかそういうことはなくて、ルーズな、リラックスした音作りがなされている。息の合ったバンド・サウンドはM-3「不戦戦艦シーシック号」、M-11「Chic Piratesよ、永遠なれ」、M-17「物恋うWaltz」などで楽しむことが出来る。


 個人的なベスト・トラックはM-12「悲しきタンバリン」と、M-18「FMとAMの間のゴースト」。「悲しきタンバリン」は慶一氏の孤独感滲む詩と美メロが見事にマッチした名曲中の名曲。これはもうスタンダードといってもよかろう。NHKみんなのうた」で放送して欲しい。一方「FMとAMの間のゴースト」はキンキーな慶一氏が丸出しになった1曲。すっとんきょうなヴォーカルと演奏が楽しい。歌詞の切れ味も素晴らしい。


 初回生産限定盤はボーナスDVD付き二枚組。前作のツアー"TOUR '08 Captain and First Mates"から1曲と、慶一氏監督によるショート・フィルム『Chic Pirates Forever』が収録されている。『Chic Pirates Forever』はかつて8ミリ小僧だった慶一氏の姿が垣間見える微笑ましい作品。アルバムの補足にもなっている。