Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『私の映画史/石上三登志映画論集成』

私の映画史―石上三登志映画論集成

私の映画史―石上三登志映画論集成


 石上三登志先生の評論集『私の映画史/石上三登志映画論集成』読む。石上先生といえば、SF関連のムックで幼少の頃からお馴染みの映画評論家だ。『マカロニアクション大全』(二階堂卓也)と並ぶ我がバイブル『私はいかにハリウッドで100本の映画をつくり、しかも10セントも損をしなかったか ロジャー・コーマン自伝』の翻訳者でもある。


 本書は石上先生の70年代の名評論を集めたもので、三部構成となっている。第一部「ぼくは駅馬車にのった」は、1973年から1975年にかけてキネマ旬報に連載された自伝的エッセイ。ジョン・フォードの『駅馬車』から始まり、『キングコング』『白熱』『血を吸うカメラ』『サイコ』『市民ケーン』『血とバラ』『昼下がりの決斗』『国際諜報局』『終身犯』『暗闇でドッキリ』『暗黒街の対決』『あの胸にもう一度』『冒険者たち』『ナック』『2001年宇宙の旅』・・・といった映画遍歴を通して、氏が次第に自分の映画的見識を確立してゆく姿が生き生きと綴られている。正に「私の映画史」だ。一貫して氏の「ヒーロー論(アンチ・ヒーロー論)」となっている辺りも面白い。


 第二部「私のメディア、私のジャンル」ではサム・ペキンパー、スパイ映画論、AIP(アメリカン・インターナショナル・ピクチャーズ)等々が取り上げられている。サム・ペキンパーロジャー・コーマンの偉大さは今では常識だけれど、40年以上も前(つまりリアルタイムで)熱く語った氏の先見の明には敬服する。特にサム・ペキンパーは私も大好きな監督なので、丁寧な論考には大いに納得させられた。『砂漠の流れ者』(我がオールタイム・ベスト10入りの大傑作)について書かれた「あらゆる伝説がそうであったように、ケイブル・ホーグの場合も“時の流れに昇華されて”、理想の心の唄と化していったのである」なんて一文には嬉しくて涙が出そうになりました。


 第三部「TVムービー作品辞典」は、1973年から1979年までキネマ旬報に連載されたTVムービー評を集めたもの。「刑事コロンボ」や「警部マクロード」といったシリーズ物から、単体番組まで、70年代当時放映されたTVムービーを紹介した超貴重な資料だ。「刑事コロンボ」は勿論だけど、何本か「これ見たことある!」というのがあって楽しかった。オーソン・ウェルズのマーキュリー劇団による火星人襲来騒動を描いた『アメリカを震撼させた夜』は子供の頃ながら見た記憶がある。あれって監督はジョゼフ・サージェント(『サブウェイ・パニック』)、脚本はニコラス・メイヤー(『タイム・アフター・タイム』)だったのか。もう一度見たいなあ。未見の作品で気になったのは、ウォーレン・オーツが放火魔を演じる『赤い暗闇』(ボリス・セイガル監督)、アメリカ初の黒人大統領を描いた『ザ・マン 大統領の椅子』(ジョゼフ・サージェント監督、ロッド・サーリング脚本、音楽ジェリー・ゴールドスミス)、ドン・シーゲル監督の西部劇『太陽の流れ者』、隠し部屋に暮らす少年を描いたサイコ・サスペンス『のぞき魔 バッド・ロナルド』(バズ・キューリック監督)あたり。見てみたいなあ。