Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『魔の谷』(モンテ・ヘルマン)

吸血怪獣ヒルゴン/魔の谷(2 in 1) [DVD]

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『魔の谷』 Beast from Haunted Cave


 監督/モンテ・ヘルマン
 製作総指揮/ロジャー・コーマン
 脚本/チャールズ・B・グリフィス
 撮影/アンディ・コスティキアン
 出演/マイケル・フォレスト、シーラ・キャロル、フランク・ウォルフ、リチャード・シナトラ
 (1959年・64分・アメリカ)


 モンテ・ヘルマンのミニ特集、27歳の監督デビュー作『魔の谷』(1959年)について。モノクロ64分の低予算映画で、製作総指揮はロジャー・コーマン(製作は弟ジーン・コーマン)。日本版DVDは、かのトラッシュマウンテン・レーベルから『吸血怪獣ヒルゴンの猛襲』と2 in 1仕様でリリースされていた。


 金塊を奪った強盗団が逃げ込んだ洞窟には、巨大な吸血クモが潜んでいた・・・というお話。「巨大な」とか書いちゃったけど、ユラユラと二重露光で現れる吸血クモは思いっきり安っぽくて胡散臭さ満点。吸血クモに捕らえられた獲物が糸で繭状にされている嫌な映像は、後の『エイリアン』にソックリだ。犯罪映画として始まり怪奇映画へと変貌する展開は、後の『フロム・ダスク・ティル・ドーン』(クエンティン・タランティーノ脚本)に先行している。タランティーノは元々『レザボアドッグス』をヘルマンに監督してもらうつもりだったというくらいだから、当然意識していただろうね。


 脚本は『血のバケツ』『リトルショップ・オブ・ホラーズ』等々コーマン作品常連のチャールズ・B・グリフィス。原作はH・G・ウェルズの短編となっているが・・・。出演者はほとんど無名、唯一知っていたのは逃亡犯のリーダー役を演じるフランク・ウォルフのみであった。ウォルフは後にイタリアへ渡り、マカロニウエスタンに多数出演(『ウエスタン』の冒頭で殺される夫役、『殺しが静かにやって来る』の保安官役等々)している。


 ヘルマン本『悪魔を憐れむ詩』のインタビューによると、コーマンはジョン・ヒューストンの『キー・ラーゴ』が好きで、『キー・ラーゴ』のパターン(悪漢たちがたてこもる話)と様々な怪獣を組み合わせたB級映画を山のように作ったのだという。本作など正にその典型と言えるだろう。ヘルマン自身は本作の仕上がりについて、「子供向けの映画」とあまり満足していないようだ。確かにギャングの仲間割れというメインのお話そのものに新味は無いが、雪山のロケーションが新鮮だし、これはこれで面白い映画であったと思う。そしてヘルマンがコーマンの狙い通りの映画を撮ったのも、本作が最初で最後だったのかもしれない。


 それにしてもHellman=地獄男とは、正にホラージャンルにぴったりの名前ではないか。



キー・ラーゴ [DVD]

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