Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『コーマン帝国』(アレックス・ステイプルトン)

 「B級映画の帝王」ロジャー・コーマンのドキュメンタリー。コーマンは監督・プロデューサーとして低予算のB級映画を大量生産しながら、その製作過程において多くの才能ある若き映画人を育てたことで知られています。低予算の現場で映画製作や演出のノウハウを叩き込まれる通称コーマン・スクールからは、フランシス・コッポラジョナサン・デミロン・ハワードマーティン・スコセッシジョン・セイルズピーター・ボグダノヴィッチジョー・ダンテ錚々たる監督たちが巣立っていきました。『デスレース2000年』『フライパン殺人』のポール・バーテルも忘れちゃいけませんね。俳優で言えばピーター・フォンダブルース・ダーンパム・グリアウィリアム・シャトナージャック・ニコルソンロバート・デ・ニーロだって若い頃はコーマンのB級映画に出ていたんです。


 映画はコーマン本人へのインタビュー、ジャック・ニコルソンロン・ハワードジョナサン・デミら門下生へのインタビュー、代表作の映像や製作中のプロデュース作のメイキングなどを交えてコーマンの魅力を解き明かしていきます。長年のファンにとっては、さんざんあちこちで見たり読んだりした内容なのでそれほど新鮮味はありませんが、この映画でコーマンを知る若い映画ファンにとっては驚くこと請け合いです。この映画で興味を持ったら、ぜひともコーマンの自伝『私はいかにハリウッドで100本の映画を作り、しかも10セントも損をしなかったか』を探して読んでもらいたいですね。無茶苦茶面白いですよ!


 映画で一番印象に残ったのは、ジャック・ニコルソンへのインタビューでした。コーマンの思い出を語るジャック・ニコルソンは、ついに感極まって泣いてしまうのです。脚本家、俳優として長い下積み時代を送っていたニコルソンに仕事を与えたのがコーマンなのでした。帝国配下の多くの映画人たちにとって、コーマンはそんな思い入れの対象なのだろうなと思います。帝王自身はいたって淡々としているだけに、感情的になったニコルソンの姿が印象に残りました。


 それにしても『コーマン帝国』って邦題には妙な勢いがあるなあ。永井豪とダイナミック・プロみたいな。


(『コーマン帝国』Corman's World: Exploits of a Hollywood Rebel 監督/アレックス・ステイプルトン 撮影/パトリック・シンプソン 音楽/エール 出演/ロジャー・コーマンジャック・ニコルソンマーティン・スコセッシロン・ハワードジョナサン・デミ 2011年 91分 アメリカ)


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