Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『Ciao!(アナログ盤)』(ムーンライダーズ)

Ciao!

Ciao!


 ムーンライダーズのアルバム『Ciao!』のアナログ盤。昨年暮れのライヴ会場で限定販売されたシリアルNo.入りの2枚組だ。現在アナログ盤を聴ける環境にないくせに、CD未収録曲があると知り買ってしまったのだった。帰省した折に、友人の妙愛博士宅でようやく聴くことが出来た。ダウンロード版、CD、アナログ盤、とこれで3種類の『Ciao!』を所持していることになる(←マニアの受難)。先日ディスク・ユニオンをのぞいたら、いつの間にか『Ciao!e.p.』なるアナログ盤が出ていたなあ。買いませんでしたよ、勿論。欲しかったけど。


収録曲は、

 Side A
  M-1.「who's gonna be reborn first?」
  M-2.「無垢なままで」
  M-3.「Mt.,Kx」
  M-4.「ハロー マーニャ小母さん」
 Side B
  M-1.「Pain Rain」
  M-2.「折れた矢」
  M-3.「Masque-Rider」
  M-4.「オカシな救済」
 Side C
  M-1.「弱気な不良 Part-1」
  M-2.「主なくとも 梅は咲く ならば(もはや何者でもない)」
  M-3.「ラスト・ファンファーレ」
  M-4.「蒸気でできたプレイグランド劇場で〜The Vapor Theatre "Playground"」
 Side D
  M-1.「チャオ!組曲 Suite: Ciao!」
   1.「月面パラダイス立ち入り禁止 〜Moon Base-Authorized Personnel Only-No Storage 〜」
   2.「老いた石」
   3.「悪戯な60代」
   4.「jewerlyの在り処」
   5.「思い出のサマー・フィールズ 〜a song falls on everything〜」
   6.「聴こえなかったシグナル〜karma event horizon〜」
   7.「ルナティック・アカデミーTokyo分校 校歌〜Cry for the moon〜」
   8.「虹の上にボロボロのバカがいる」
   9.「ガリバーたちの週末」
   10.「無垢なままで」
   11.「屋根裏のベンチ」
   12.「Silent Afternoon」
   13.「Last Serenade」
   14.「2010s Ciao!」


 CDと違うのはSide CのM-1「弱気な不良 Part-1」(バージョン違い)と、Side D「チャオ!組曲 Suite: Ciao!」(CD未収録)。CDに収録された「弱気な不良」は「弱気な不良 Part-2」で、何でいきなり「Part-2」なのかなあと思っていたが、アナログ盤に「Part-1」が収録されていたのだった。若干アレンジと歌詞が違っている。今となってはライダーズの新曲は当分の間聴けない訳で、こういったバージョン違いでも嬉しいなあ。歌詞はよりストレートなもので、武川氏のライダーズに対する思いが伝わってくるようだ。


 最大の聴き所は、CD未収録の大作「チャオ!組曲 Suite: Ciao!」。アナログ盤一面を使った組曲である。これまでも1曲の中で何度も転調を繰り返し2曲分、3曲分のメロディーが仕込まれていたり、メンバーが一小節ずつ作ったものを繋げた曲もあった。が、ここまでの大作は始めてのことだ。作詞・作曲はEd Morrison、演奏・編曲はroomdiners名義でクレジットされている。


 「もしかしてラスト・アルバムかも」ということを意識してか、『Ciao!』収録曲の歌詞には別れの言葉が散見される。特に「チャオ!組曲 Suite: Ciao!」にはかなりストレートに別れの言葉が盛り込まれている。例えば慶一氏の「老いた石」にはこんな歌詞が。


 昼に言うさよならは悲しくない
 笑顔を振りまいて チャオ チャオ
 誰もが知っている 自分の弱さなんて とるに足りない
 だから今なら おいぼれかけで
 転げる石のままだからね


 かしぶち氏は「悪戯な60代」(このタイトル!)で興行を終えたサーカスを歌い、岡田氏は「思い出のサマー・フィールズ」で得意の美メロを披露、良明氏は「jewerlyの在り処」で相変わらず元気一杯にはじけてるし、博文氏は「虹の上にボロボロのバカがいる」で独自のブルースを歌い、武川氏のヴォーカルが聴けない(「無垢なままで」のセッションらしき音源でかすかに聴こえる)代わりに組曲の要所でヴァイオリンが暴れまわる・・・。メンバーの個性が次々と現れては消える、めくるめく18分50秒だ。


 個人的に、一番印象に残ったのは岡田氏の歌声であった(そう、『Ciao!』は岡田氏のヴォーカルがたくさん聴けるアルバムなのだ)。組曲における「思い出のサマー・フィールズ」「Last Serenade」(アルバムに先駆けて配信されたバージョンでは慶一氏が歌っていた)はとても胸に響いた。全く勝手な想像なのだけれど、ライダーズが活動休止になって一番悲しんでいるのは岡田氏なんじゃないかなあという気がしている。ので、「Last Serenade」のこんな歌詞が胸に滲みる。


 止まれば溶けて 砕けるように さようなら
 指の隙間に 月が輝く ありがとう


 最後の「2010s Ciao!」でメンバーの別れの言葉がノイズの彼方に消えてゆく。


 アルバム通して聴くとさすがに凄いボリュームで、こんなパワーに溢れたバンドが活動休止なんて今でも信じられない。すぐに活動再開・・・とはいかないだろうけど、デモトラック集でも未発表ライヴ音源集でも何でもいいからガンガン出して欲しいなあ。ミュージック・マガジンで評論家某氏が書いていた通り「ムーンライダーズの前に神はなし」ですよホントに。アナログ盤はジャケ写が大きいのでメンバーの表情が良く見れて嬉しかった。


 最後に。昨年暮れのライヴではぜひ「主なくとも 梅は咲く ならば(もはや何者でもない)」をやって欲しかったと思う。メンバーのコーラス、締めの「花を投げてくれい!」という慶一氏のヴォーカルを生で聴きたかったなあ。


Ciao!THE MOONRIDERS LIVE 2011 [DVD]

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