Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『女と男のいる舗道』(あがた森魚)

女と男のいる舗道

女と男のいる舗道


 デビュー曲「赤色エレジー」から数えて今年で活動40周年を迎えるあがた森魚。昨年は何と3枚のアルバムをリリースするなど、近年も旺盛な活動を続けている。40周年記念企画としてリリースされたアルバムが女と男のいる舗道だ。60年代を中心に、氏が影響を受けた映画音楽のカバーアルバムである。


 プロデュースはムーンライダーズ白井良明。本盤はライダーズのメンバーが深く関わったアルバムなので、「その後のムーンライダーズ活動チェック」の一環でもある。良明氏はサウンド・プロデュース、アレンジャー、ギタリストとして全面参加。オールディーズ、サンバ、ボサノヴァ、ハワイアン、ファンク、歌謡曲と幅広い楽曲の中で、良明氏の多彩なギター・プレイが楽しめるのも本盤の大きな魅力のひとつだ。


 収録曲は、


 M-1.「女と男のいる舗道」(『女と男のいる舗道』より)
 M-2.「死ぬほど愛して」(『刑事』より)
 M-3.「日曜はダメよ」(『日曜はダメよ』より)
 M-4.「愛しのレティシア」(『冒険者たち』より)
 M-5.「男と女のサンバ」(『男と女』より)
 M-6.「リオの男〜カーニバルの朝」(『リオの男』『黒いオルフェ』より)
 M-7.「カーニバルの朝」(『黒いオルフェ』より)
 M-8.「女と男のいる舗道プレリュード」(『女と男のいる舗道』より)
 M-9.「いろはにPusherman」(『スーパーフライ』より)
 M-10.「海底二万哩パレード」
 M-11.「星に願いを」(『ピノキオ』より)
 M-12.「二十四時間の情事」(『二十四時間の情事』より)
 M-13.「007は二度死ぬ」(『007は二度死ぬ』より)


 アルバムはJ=L・ゴダールの『女と男のいる舗道』(オリジナルはミシェル・ルグラン)からスタート。アメリカ映画は少なくて、ヌーヴェルヴァーグ(『女と男のいる舗道』『二十四時間の情事』)、フレンチ活劇(『リオの男』『冒険者たち』)、イタリア映画(『刑事』)等、フランス・ヨーロッパ寄りのセレクトがなされている。それにしてもド・ルーベの『冒険者たち』はいい曲だよなあ。


 アメリカ映画からは『ピノキオ』『海底二万哩』といったノスタルジックでドリーミーなタイトルがセレクトされている。M-10「海底二万哩パレード」はジュール・ヴェルヌ原作、リチャード・フライシャー監督『海底二万哩』をタイトルに掲げたオリジナル。潜水服、とくればあがた氏の過去のアルバムとの関連性も見えて楽しい。


 アメリカ映画からはもう1曲、意外な映画がセレクトされている。M-9「いろはにPusherman」は、何とブラック・スプロイテーションの名作『スーパーフライ』(オリジナルはカーティス・メイフィールド)ではないか。本盤の中で最も異色の雰囲気である。ゲストの鈴木茂がファンキーなギター・プレイを披露している。


 スタンダード・ナンバーを独自のスタイルで歌いこなすあがた氏の魅力が存分に発揮されているのは、M-13『007は二度死ぬ』のテーマ。氏のシャンソン的な唱法、良明氏のドラマティックなギター・ソロがハマっている。往年の日活アクションに登場するキャバレーの歌謡ショーみたいな胡散臭さも少々。


 M-3「日曜はダメよ」はムーンライダーズのレパートリーでもあり、ゲストとしてライダーズの白井良明(ギター)、武川雅寛(ヴァイオリン)、鈴木博文(ベース)、かしぶち哲郎(ドラム)が参加。間奏では『イスタンブール・マンボ』の頃を髣髴とさせる無国籍ムードも楽しめるので、ライダーズのファンにもお薦め。先の小島麻由美をヴォーカルに迎えたバージョン(『ゲゲゲの女房のうた』カップリング)と聴き比べてみるのも一興だ。


 本盤について、映画音楽のカヴァー集という企画自体はそれほど新鮮なものではなく、かつてのあがた作品に比べると「濃さ」が足りないと言う意見もあろうかと思う。個人的には、40周年を迎えたあがた氏の余裕というか、リラックスした雰囲気が感じられて楽しいアルバムに仕上がっていると思う。ちなみにジャケ写の美女はアンナ・カリーナ・・・ではなくて緑魔子