Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『聖なる怪物』(ドナルド・E・ウェストレイク)

聖なる怪物 (文春文庫)

聖なる怪物 (文春文庫)


 ドナルド・E・ウェストレイク『聖なる怪物』Sacred Monster(1989年)読了。中篇といってもいいくらいの長さなので、あっという間に読み終えてしまいました。


 豪邸のプールサイドで、年老いた往年の大スター、ジャック・パインがインタビュアーを前に自らの半生を語っている。アルコールやドラッグや老人ボケや何やらで朦朧とした老俳優の語りは脱線を繰り返しながら、長年に渡って抱え込んでいた闇が次第に明らかになってゆく・・・というお話。ジャックの視点から見た現在、ジャックが語る過去の回想、そしてインタビュアーの視点から語られる現実、と三つのパートが交互に描かれます。展開するのは、ビリー・ワイルダーの『サンセット大通り』を思わせるハリウッド・バビロンの世界。そう言えば『サンセット大通り』の語り部ウィリアム・ホールデンもプールにいましたねえ。それはさておき。


 舌が滑らかになったジャックがつい自分がその場を去った後の様子まで語ってしまい、インタビュアーに「あんたそれ見てないでしょ」と度々突っ込まれるのがおかしい。ジャックが酩酊状態に陥ると、目覚ましにいろんなクスリを持って現れる忠実な執事が何ともいい味を出しています。


 本作はミステリー小説であるからして、終盤に二転三転し「意外な結末」が待っていますが、それよりも印象に残るのは主人公とその親友の特殊な関係性でした。それにしても、かくも「童貞喪失」は人生を左右する一大事なのか、と思いますね。・・・って書くとみうらじゅんみたいだけれど。


ハリウッド・バビロン ?

ハリウッド・バビロン ?