Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『おやすみなさい おつきさま』(マーガレット・ワイズ・ブラウン)

おやすみなさいおつきさま (評論社の児童図書館・絵本の部屋)

おやすみなさいおつきさま (評論社の児童図書館・絵本の部屋)

  • 作者: マーガレット・ワイズ・ブラウン,クレメント・ハード,せたていじ
  • 出版社/メーカー: 評論社
  • 発売日: 1979/09
  • メディア: 単行本
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ぼくのせかいをひとまわり (児童図書館・絵本の部屋)

ぼくのせかいをひとまわり (児童図書館・絵本の部屋)

  • 作者: マーガレット・ワイズブラウン,クレメントハード,Margaret Wise Brown,Clement Hurd,おがわひとみ
  • 出版社/メーカー: 評論社
  • 発売日: 2001/10/01
  • メディア: 単行本
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 ウチの娘がまだ小さいので、絵本を読む機会がとても増えました。毎月40〜50冊くらいの絵本に目を通していますが、時折びっくりするようなハイ・クオリティの作品に出くわします。最近読んで驚愕したのが、『おやすみなさい おつきさま』と『ぼくのせかいをひとまわり』でした。「驚愕」とは何て大袈裟な、と思われるでしょうが、ホントにそれくらいの驚きでありました。作者はマーガレット・ワイズ・ブラウン、挿画はクレメント・ハードによるものです。


 『おやすみなさい おつきさま』Goodnight Moon(1947年)は、寝室でベッドに入った小ウサギが、おばあさんウサギ、猫やネズミ、部屋にある絵や小物などいろいろなものに対しておやすみの挨拶をしてゆき、やがて眠りにつくまでを描いています。まず部屋の全景があり、次いで額にかかった絵画や床に寝そべる猫といった部分が点描され、再び部屋の全景(先の様子とは少し違っている)が示され、また部分が点描され・・・の繰り返しで淡々と進行してゆきます。説明や台詞は極端に切り詰められており、登場するキャラクターも無表情で、静寂な絵の雰囲気が何とも言えない情感を醸し出しています。


 最初に本屋で読んだ時は、あまりに静かな雰囲気に「これって幼児が読んで楽しいものなのだろうか」と少々疑問に思ったものでしたが、娘に読んであげると気に入ったようで何度も何度も読んで欲しいとせがまれました。何しろ1940年代(!)に出版されてこれまで愛読されている絵本なのですから、それだけ子供の感性を刺激する普遍的な魅力があるということなのでしょう。


 姉妹編である『ぼくのせかいをひとまわり』My World : a companion to GOODNIGHT MOON(1949年)は、全景・点描の繰り返しのリズムと静かな絵の雰囲気はそのままに、前作よりも少し成長した小ウサギがその周りの世界(家族、家の様子、玩具・・・)について語ってゆきます。『おつきさま』以上にアートなタッチであり、文章は物語というよりも詩を読んでいるようです。朝を迎えたベッドで小ウサギが手にした赤い風船、唐突に挿入される来客を迎えた食卓の風景、そして終わり方には痺れました。邦題も素晴らしい。


 同作者コンビの絵本ではもう一冊、『ぼくにげちゃうよ』The Runaway Bunny(1942年)もとても良かったです。母親ウサギと小ウサギの対話を描いた小ぢんまりとした物語ながら、絵はとてもイマジネーションに溢れてダイナミック。『おつきさま』とリンクする部分もあり楽しめました。


 余談になりますが、『おつきさま』『せかいをひとまわり』を読んで、ふとデヴィッド・リンチが影響受けてるんではないかと思いました。そんな馬鹿なと言う事無かれ、実は極めてアメリカンな作家であるリンチがこの絵本の存在を知らない訳がないと思うのです。もちろん血や暴力とは縁遠い絵本ではありますが、全景・部分の点描のリズムや、部屋の壁に掲げられた絵画に入り込んでゆく感覚、そして擬人化されたウサギ!ですよ。絵画のタッチが『ツイン・ピークス』(特に悪評高き映画版)や、『インランド・エンパイア』にそのまま移植されているような気がしてなりません。


 さておき、絵本(児童書)の世界には奥深いものがあるのだなあと感心します。今後はこのブログで、気に入った絵本(児童書)も採り上げていこうと思っています。


ぼくにげちゃうよ (海外秀作絵本)

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インランド・エンパイア [DVD]

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