Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『アクターズ・ラブ/舞台は恋のキューピット』(ジョナサン・デミ)

 

 ジョナサン・デミ監督のTVムービー『クリストファー・ウォーケンのアクターズ・ラブ/舞台は恋のキューピット』(1982年)鑑賞。友人の妙愛博士からお借りしたディスクで、久々の再見。もうメチャクチャ可愛らしい作品だった。仕事明けの深夜帯に見始めたけど、面白くて疲れが吹き飛びましたよ!

 

 邦題がちょっと馬鹿っぽい。原題はWHO AM I THIS TIME?。「今度は誰の役を演じるの?」といった感じで、劇中で主人公が言う台詞。原作は何とカート・ヴォネガットで、元になった短編は『モンキー・ハウスへようこそ』に収録されている。ヴォネガットだけど非SF。

 

 舞台は地方の素人劇団。クリストファー・ウォーケン演じる主人公は、金物屋で働く内気な青年。一旦舞台に上がると役になりきって豹変し大胆に振舞えるのに、公演が終わり幕が閉じると恥ずかしがってカーテンコールの前に姿を消してしまう。素人劇団に参加し青年の相手役を務めることになったスーザン・サランドンは、ウォーケンの舞台上と普段のギャップに戸惑いながら魅かれていく。この主演2人がとにかく初々しくて可愛いのだ。最近はおっかない役ばかりで、いつからか本作のようなナイーブ・ウォーケンを見ることが無くなったのは残念。脇役では、演出家役のおじさんどっかで見たことある顔だなと思ったら、『ブギーナイツ』のジェームズ大佐(ロバート・リッジリー)だった。『ブギーナイツ』では酷い役だったけど、本作では主人公たちを見守る良い役。

 

 製作年(82年)は『メルヴィンとハワード』と『ストップ・メイキング・センス』の間。デミの美徳である優しい視線の人間観察と、軽快なテンポが存分に発揮された名編だと思う。サランドンが恋に落ちる場面を、カメラのトラックバックとズームを組み合わせた撮り方(スピルバーグが『ジョーズ』で使ってた)してたりして。音楽は初期作品『女刑務所 白昼の暴動』でも組んだヴェルヴェット・アンダーグラウンドジョン・ケイル。軽快なピアノ曲が映画を彩っている。