Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『映画は呼んでいる』(川本三郎)

映画は呼んでいる

映画は呼んでいる


 川本三郎の映画エッセイ集『映画は呼んでいる』(2013年)読了。『キネマ旬報』の連載コラム「映画を見ればわかること」をまとめたものとのことです。
 

 本書の巻頭は「まえがきにかえて 細部を楽しむ」という一文です。「映画を見ると、細部が気になる。」という書き出しで、川本氏の映画への接し方を語っています。最近ヲタ仲間と話す機会が無いので、「細部を楽しむ」ことを忘れがちだなあと思いましたね。映画について友人と語る時、やはり細部についての話題が盛り上がるし、細部を起点として別の映画の話題に繋がったりするのも楽しい。本書では様々なジャンルが幅広く採り上げられています。アイダ・ルピノエドガー・G・ウルマーといったノワール系も採り上げられているのが嬉しいところ。日本映画は往年の名画から最近のものまで様々なタイトルが挙がっています。東京の風景と鉄道は特に氏のこだわる「細部」なのでしょう。映画に登場する東京の風景、鉄道や車窓の風景、停車駅の様子が生き生きと描かれています。


 川本氏の著作を読むのは久しぶり。80年代には『都市の感受性』(1984年)他、それこそ同時代的に手にとって読んだのを思い出します。氏の文章は雑誌や映画のパンフレットなどで目にする機会が多いので、そんなに久しぶりと言う気はしませんが、こうしてきちんと一冊読むのは『スタンド・アローン 20世紀・男たちの神話』以来だから、15年ぶり、いやもっと経っているかも。川本氏と聞いて反射的に思い浮かぶのは、「喪失感」「CCR」。本書でもCCRと『ドッグ・ソルジャー』(カレル・ライス監督)について書かれている項があって、相変わらずだなあと苦笑させられました。全体の文章のトーンは以前に比べて随分と落ち着いたというか静かなものになっているような印象を受けました。森田芳光の死や東日本大震災についての文章が含まれていることもあって、お得意の「喪失感」という言葉こそ出てきませんが、全体にそんな感覚が低通しているようです。川本氏は1944年生まれというのでもう71歳。それはトーンも落ち着いてきますよね。調べてみると、年に1〜2冊のペースで著作を重ねているようです。近いうちにまた氏の本を読んでみようと思います。


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