Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『クリーピー 偽りの隣人』(黒沢清)

 黒沢清監督の新作『クリーピー 偽りの隣人』見ました!完全に一線を踏み越えてしまったようなヤバい映画でしたね。こちとらホラー映画慣れした目で見ても思わずのけぞるような描写がてんこ盛りで、家電のCMとかTVドラマでしか知らない西島秀俊ファンが見たらドン引き間違いなしのトラウマ映画でした。


 『クリーピー』は、黒沢監督の卓抜な演出力と同時に、監督の醒めた世界観が丸出しになっているような印象を受けました。しかも映像も音響も台詞も演技もロケーションも何から何まで危険な電波を発しているようで、こちらのコードに引っかかりまくりで、鑑賞後は暗く重い気分に落ち込んでしまいました。映画見てこんなに落ち込んだのは久しぶりかもしれません。長年のファンである黒沢監督作品なんで、詳しい解説や感想を書き記したいところなんですが、あまりに落ち込んでいて今はちょっと無理な感じです。そういえば、かつて友人のくにとも師が「欧州旦那自爆もの」と評したアンジェイ・ズラウスキーの『ポゼッション』やニコラス・ローグの『赤い影』なんかに相通じる夫婦の話だったりして、それも落ち込んだ一因かもしれません。詳しい感想は、フランスで撮ったもう1本の新作『ダゲレオタイプの女』を見てから書こうかなと。ちなみに『ダゲレオタイプの女』は怪談っぽい話のようなんで、ジャック・リヴェットの『Mの物語』みたいな感じでしょうか。


 『クリーピー』鑑賞後真っ先に思ったのは、「高橋洋の感想が聞きたい」ということでした。『クリーピー』は、黒沢監督+高橋脚本による『復讐 運命の訪問者』『蛇の道』直系の暗黒の世界であり、黒沢監督ではないけれど高橋脚本の『インフェルノ 蹂躙』と共通する部分も大いにあると思います。黒沢監督はロングインタビュー『黒沢清の映画術』の中で、高橋脚本をして「あんなに「ひどい人間ばかり出てくる脚本は自分には書けない」と言ってましたが、『クリーピー』だって相当なもんだと思いますね。いやあしかし凄い映画だったなあ。夢に見そうだよマジで。


(『クリーピー 偽りの隣人』 監督/黒沢清 原作/前川裕 脚本/黒沢清池田千尋 撮影/芦澤明子 音楽/羽深由理 出演/西島秀俊竹内結子川口春奈東出昌大香川照之藤野涼子笹野高史 2016年 130分 日本)



黒沢清の映画術

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