Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『リコリス・ピザ』(ポール・トーマス・アンダーソン)

 

 日比谷TOHOシネマズシャンテにて、ポール・トーマス・アンダーソン監督『リコリス・ピザ』鑑賞。

 

 70年代のロサンゼルス、サンフェルナンド・バレー(監督のホームグラウンド)を舞台にした青春グラフィティ。メインストーリーは15歳の高校生と25歳の年上の女性の恋愛模様。と聞くと「初心な高校生が経験豊かな年上の女性に憧れて・・・」みたいなお話かと思いきや、ちょっと様相が違いました。高校生のゲイリー・ヴァレンタイン(クーパー・ホフマン)は子役出身の若手俳優。妙に世慣れていて、学校生活の傍ら芸能活動や、飲食店の経営やウォーターベッドの販売など起業精神も豊富。一方カメラマン助手のアラナ・ケイン(アラナ・ハイム)は仕事や家庭など現在の環境を抜け出したいと悩んでいる。アラナはゲイリーの猛アタックと仕事に振り回されながら、次第に本当の自分を確立していきます。映画は2人の距離感と関係の変化、学園生活やウォーターベッド販売の顛末をスケッチ風に活写していきます。ポール・トーマス・アンダーソン監督は最近ちょっと重い作風が続いていましたが、久々『ブギーナイツ』の頃に戻ったかのような軽快な演出が嬉しい。特にアラナがオーディションを受けるくだりと、変人の金持ち(ブラッドリー・クーパー怪演)の屋敷からガス欠のトラックで逃げるくだりは最高でした。

 

 劇中何度か2人が疾走するシーンが描かれて、これがとても良い。走るスピードや距離、方向が絶妙に描き分けられていて、そこで2人の気持ちや関係性の変化が劇的に表現されているのには感動しました。

 

 全編に70年代ロックがあれこれ流れて楽しい。個人的には、ウォーターベッドの仕事を始めた主人公たちがトラックに積み込みをする場面で流れるドアーズPeace Frog(『モリソン・ホテル』収録)がヒットでした。オリジナルスコアはレディオヘッドジョニー・グリーンウッド。『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』で印象的に鳴り響いた現代音楽風ではなくて、ソフトロック風でこれもまた良い。

 

 ポール・トーマス・アンダーソン監督は『ブギーナイツ』以降、新作を楽しみにしている監督の1人です。キャラクターが映画を引っ張る作劇はとても好ましく、今回も気に入りました。次回作も楽しみ。

 

リコリス・ピザ』 Licorice Pizza

監督・脚本/ポール・トーマス・アンダーソン 撮影/ポール・トーマス・アンダーソン、マイケル・バウマン 音楽/ジョニー・グリーンウッド

出演/アラナ・ハイム、クーパー・ホフマン、ベニー・サフディショーン・ペントム・ウェイツブラッドリー・クーパー

2021年 アメリ