Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『パリ13区』『カモン カモン』 

 

 このところ毎日辛すぎてたまらんので、映画館へ逃避。早稲田松竹にて、『パリ13区』『カモン カモン』2本立て鑑賞。2本とも2021年の新作ですが、モノクロ作品です。

 

 ジャック・オディアール監督『パリ13区』は、パリを舞台に4人の男女の恋愛模様を綴るドラマ。舞台となる13区は高層住宅が連なる再開発地区で、絵葉書的なパリではなく生活感のある界隈。映画はそこに暮らす人たちを生々しく映し出していきます。お話の中心に位置するカミーユ(マキタ・サンバ)はアフリカ系フランス人、彼とルームシェアするエミリー(ルーシー・チャン)は台湾系。またノラ(ノエミ・メルラン)はウェブを通じてポルノスターのアンバー・スウィート(ジェニー・ベス)と知り合い、女性同士交流を深めてゆく。人種の多様性や性愛を超えた相互理解のドラマが展開します。

 モノクロの映像は一見スタイリッシュですが、ドラマも演出もどこか垢抜けないというか、古臭いものを感じました。音楽のせいかな。エミリーがダンスしながらレストランを通り抜ける移動ショットなんて、もっと良い場面になりそうなんだけどなあと思いましたね。

 

 同時上映はマイク・ミルズ監督『カモン カモン』。ラジオ局に勤めるジャーナリスト、ジョニー(ホアキン・フェニックス)は、妹から甥っ子のジェシー(ウディ・ノーマン)を預かることになり、共同生活を始めます。独身の中年男と9歳の男の子が生活を共にする中で次第に絆を深めていくお話です。これはちょっとよそいき過ぎるかな。善意の押し売りとまでは言わないまでも、若干「わかったもういいよ」と言いたくなるくどさを感じました。いや、とても良い映画だと思うし、映画っぽい情感は『パリ13区』よりはるかに上だと思います。『カモン カモン』という題名に関わる場面では、泣きそうになきそうになってしまいました。

 全編に展開する子育てあるあるな描写には苦笑い。特に不思議な設定の物語を勝手に進めていくジェシー君のエキセントリックな言動や、興奮して夜なかなか眠ろうとしない様子など、見覚えがありましたね。ジェシー君を背負ったジョニーがカーニバルで失神する場面を見て、ディズニーストアで買い物している時疲労のあまり気を失ってベビーカーに倒れ込んだことがあったなあと思い出しました。

 

 今回は恋愛映画とホームドラマ、どちらかといえば二本とも苦手なジャンルなので、映画館に行けるだけでいい、途中で寝てもいいやと思っていたのですが、幸い面白い映画で退屈はしませんでした。作品の評価にはあれこれ思うところあるけれど、映画館を出る頃には頭がスッキリとクリアーな状態に戻ってくれたので、無理して行って良かった・・・。