Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『たぶん悪魔が』(ロベール・ブレッソン) 1977年 

 

 早稲田松竹にて、ロベール・ブレッソン二本立て『湖のランスロ』『たぶん悪魔が』。

 

 『たぶん悪魔が』(1977年)は、社会不安の中で生きる若者たちの彷徨を描く。主人公は政治集会や授業に出てものめり込むことが出来ず、友人たちの心配をよそに自死へと近づいていく。環境破壊や水爆実験などのニュース記録映像が何度も映し出される。このドラマ部分は、なんだか昔自主映画の上映会で散々見せられたなあこんな感じの話という気がして、どうも浅い印象。演出の手つきには興味を魅かれつつ、ドラマ部分には面白味が感じられなかったというのが正直な感想です。10代、20代の頃に見たらまた違った受け止め方だったかもしれませんが。『湖のランスロ』が意外なほど娯楽映画だったので、正直言ってこっちの方がキツかった。Twitterで「たぶん悪魔が、じゃなくてたぶん睡魔が」と書いてる人がいて笑った。

 

 ブレッソンといえば、職業俳優を嫌い、素人を積極的にキャスティングすることで有名。本作の出演者もいかにもそれっぽい人たちばかりが出てきて、棒立ち無表情の生々しい存在感を発揮してる。ブレッソンが描く若者たちは、ガス・ヴァン・サント作品に似て妙に色っぽかった。そこが一番の見どころか。

 

 基本的にブレッソンの目線は作業している人物の手元に注がれていて、構図では微妙に頭や顔がフレームから外れているのが不安感を煽る。不思議だったのは、主人公が友人とバスに乗っている場面。それまでの素っ気ない撮り方とは変わり、降車時の切符処理、ミラーに映った降車の様子、運転手の作業の細部が妙に丁寧なカット割りで捉えられています。ブレッソンはバス運転の一連の作業に興味が向いたのだろうか。急に何この丁寧な撮り方は?と思ったら、衝突事故が発生。衝突音と、降車する運転手の動作だけでその場面は終わり。登場人物の反応や物語への影響は描かれない。バスの降車プロセスには興味があっても、事故は全く素っ気ない描写でやり過ごすのがブレッソンらしい。(のか?)

 

 ラストの銃撃場面は衝撃的。そうか、この後が『ラルジャン』かと、妙に納得しました。本作もエンドマークは出ずにぶっつりと終わり。劇場の観客の戸惑う空気が伝わってくるようでした。

 

たぶん悪魔が』 Le diable probablement 

監督・脚本/ロベール・ブレッソン 撮影/パスクァリーノ・デ・サンティス 音楽/フィリップ・サルド

出演/アントワーヌ・モニエ、ティナ・イリサリ、アンリ・ド・モーブラン、レティシア・カルカノ

1977年 フランス