Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『野性の少年』(フランソワ・トリュフォー) 

 

 特集上映「生誕90周年上映 フランソワ・トリュフォーの冒険」(角川シネマ有楽町)にて、『野性の少年』(1970年)鑑賞。『野性の少年』はこれまで何度も見ている大好きな映画ですが、劇場鑑賞は初めて。今回は妻子を伴って見に行きました。家族で劇場は半年ぶり、娘(小4)は字幕付きの洋画鑑賞は初めての体験です。

 

 

 時は1800年のフランス、森林地帯で野性の少年が捕らえられた。パリの聾啞者研究所のイタール博士はその少年を引き取り、人間性の回復と社会復帰が可能なことを証明しようとするが・・・というお話。

 

 改めて見直して、やはりこれは傑作だと感動を新たにしました。本作はコスチュームプレイですが、トリュフォーの簡潔極まりない演出は、まるで現在進行形の出来事に立ち会っているかのような臨場感があって素晴らしい。完成度の点から言えばトリュフォー作品の中でも1、2を争う出来なのではないかと思います。窓、蝋燭の灯り、手紙を書く人物(本作ではイタール博士の手記)、とトリュフォー作品でお馴染みのモチーフも登場します。撮影はこの後トリュフォー作品常連となるネストール・アルメンドロスモノクロームの繊細な映像美には惚れ惚れします。

 

 野性の少年を教育するイタール博士を演じるのはトリュフォー自身。トリュフォーの妙に無表情で素っ気無い演技と、ヴィクトールと名付けられた野生児を演じる子役のまるで本物を連れてきたとしか思えないような生々しい演技の対比が、映像にドキュメンタリー的な信憑性を与えています。それにしてもあの子役は何者なんだろう。甲高い「レ」(牛乳)という発音、雨の中の嬉しそうな揺れ、窓辺で無心に水をのむ表情、お風呂に入った時の喜びよう・・・。まるで本物にしか見えません。「天才子役」とは正に彼の為の言葉ではないのか。見世物にされそうな少年を保護する老人(ポール・ヴィレ)、イタール博士のよき理解者ゲラン婦人(フランソワーズ・セーニエ)の存在感も印象に残ります。

 

 本作はジャン=ピエール・レオーに捧げられています。イタール博士とヴィクトール少年の関係には、かつて不良少年でドロップアウトしていたところをアンドレ・バザンに助けられ更生したトリュフォー自身の体験が反映していると思われます。また、自ら教師役を演じることで、トリュフオー自身、不良少年から父親役へと一区切りつけようとしたに違いありません。

 

 妻(トリュフォーの大ファン)は、「年齢を経て見ると、また見方が変わって面白いね」と。娘は初の字幕付き洋画(しかも50年以上前のモノクロ作品)でしたが全く問題なしで、楽しんでいた様子。良かった良かった。

 

 

野性の少年』 L' ENFANT SAUVAGE     

監督/フランソワ・トリュフォー 脚本/フランソワ・トリュフォージャン・グリュオー 撮影/ネストール・アルメンドロス 音楽/アントワーヌ・デュアメル 出演/ジャン=ピエール・カルゴル、フランソワ・トリュフォー、ジャン・ダステ、フランソワーズ・セーニエ

1970年 フランス

 

 

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