Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『スタッフロール』(深緑野分) 

 

 深緑野分『スタッフロール』(2022年)読了。映画ネタの小説は大好物なので手に取ってみた。面白かったので一気読みでしたよこれ。

 

 本作は2部構成で、2人の女性クリエイターの紆余曲折が描かれる。第1部の主人公は60年代後半から80年代のハリウッドで活動した特殊造形師マチルダ。第2部の主人公は現代ロンドンでCGクリエイターとして活動するヴィヴィアン。かつてマチルダが造形した怪物Xが登場する映画『レジェンド・オブ・ストレンジャー』がリメイクされることになり、ヴィヴィアンのスタジオがCG化を担当、クリーチャーへの愛で邁進する2人の女性の人生がクロスする。本作は、才能を発揮しながらもスタッフロールに名を残すことが無かった優秀なクリエイターたち(とりわけ映画業界で辛酸を味わう女性スタッフたち)への感動的な讃歌となっている。

 

 物語は映画における特殊撮影の歩みとともにあり、『2001年宇宙の旅』から『スター・ウォーズ』へ、CGを導入した『トロン』、ピクサーのフルCGアニメ『ルクソーJr.』へと、様々な映画が引用される。題材から言っていくらでもマニアックになりそうなところ、凝り過ぎずメジャー感を残しているところが良い塩梅。特殊造形の過程、CGの製作過程などが細かく描かれているのも面白かった。自分も学生時代に友人の自主映画で特殊メイクを施された経験があるので、型取りの描写など懐かしかったな。業界人は忙しすぎて新作映画を見なくなる、なんて細部もリアリティがある。リメイクを企画した映画監督のモデルはギレルモ・デル・トロか。

 

 本作を読んで想起したのは、コニー・ウィリスの『リメイク』だった。映画への情熱、創作活動(オリジナル)を巡る重要な考察を含みつつ、軽やかな娯楽小説として成立していることろが共通していると思う。