Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』(デヴィッド・クローネンバーグ)

 

 デヴィッド・クローネンバーグ監督『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』鑑賞。T・ジョイPRINCE品川にて。

 

 体内に新しい臓器を生み出す主人公(ヴィゴ・モーテンセン)と、元執刀医で臓器摘出の公開手術を行うパフォーミング・アーティスト(レア・セドゥ)。プラスティック食を消化する臓器を持つ進化した少年。人類が間違った方向へと進化するのを取り締まる政府機関。ファンが想像するクローネンバーグ的なものがてんこ盛りなった異色のSF映画。映画の視点は完全に主人公側にあり、主人公たちと共にカメラも奇怪な実験の悦びに震えている。いつになく華やかなハワード・ショアの音楽が画面を彩る。

 

 バラード原作『クラッシュ』はあり得ないジャンルのポルノ映画を真顔で撮ってる感じだった。センセーショナルな煽りはなく淡々としているのが実に良かった。本作もまた然り。グロテスクな映像を次々と繰り出しながら、自然体の演出は実に優雅。これが本物の変態かと思わせる。薄暗い作業場と奇怪な装置の数々。身体に穿たれた穴への執着。お馴染みのモチーフも満載で実に楽しい。

 

 主演はクローネンバーグ作品に連続登板のヴィゴ・モーテンセン。黒づくめの衣装と掠れた声での台詞回し。元執刀医のパフォーマーを演じるレア・セドゥの堂々たる存在感。野心と欲望を滾らせた暗い光を放つ目のクリステン・スチュワート。他にもライフフォーム・ウェア社の修理係2人組など、女性キャラクターが強烈な印象を残す。

 

 クローネンバーグの主人公たちは様々な肉体の変容に見舞われる。そこで怯え逃げ惑えばホラー映画になろうが、彼らはさらに先へと進もうとする。その探究心ゆえにクローネンバーグの作品はSF映画となる。本作もまた然り。致死の毒物を食した主人公の恍惚の表情を見よ。