Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『鑑識レコード倶楽部』(マグナス・ミルズ)

鑑識レコード倶楽部

鑑識レコード倶楽部

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 マグナス・ミルズ『鑑識レコード倶楽部』(2017年)読了。作者については全く予備知識なし。例によって「柴田元幸翻訳にハズレなし」のセオリーに沿って手に取ってみた。

 

 毎週月曜日の夜、パブの個室に「鑑識レコード倶楽部」を名乗る男たちが集まってレコードを聴く。聴いた曲に批評やコメントはしないというルールで、持ち寄ったレコード(LPじゃなくてシングル盤)をひたすら聴く。ほとんどそれだけのお話なんだけど、これがなかなか深くて面白い小説だった。

 

 「聴いた曲に対し批評もコメントもしない」という厳しいルールに反発するメンバーが現れて、次第に倶楽部は「認識レコード倶楽部」「新・鑑識レコード倶楽部」と枝分かれしていく。やっぱりいい曲聴いたあとには一言感想言いたくなるよね。その内に「告白レコード倶楽部」という新興宗教めいた対抗勢力が出てきたりしてじつにおかしい。ロックに興味がない人は、たかがロックを聴くのに何でそんなに真剣になるのかと思うことだろう。いつの間にかパブの閉店時間になってマスターにどやしつけられながら帰るという描写が何度も出てきて、没入して聴いていると時間を忘れる感じも上手く描写されている。メンバーのバックボーンは全く描かれていないが、曲のセレクトや聴いた後の反応でキャラクターが描き分けられてるのが面白い。

 

 彼らが聴いた曲は、曲名と時々歌詞の引用があるのみで、ミュージシャンの表記が出てこない。分からなくても面白く読めるけれど、「これはあの曲だな」と考えながら読むのはロック好きならではのお楽しみだ。柴田さんは作者と同い年(45年生まれ)のようで、翻訳しながら楽しかったろうなと思う。自分はビートルズストーンズキンクス、ディラン、フー、後のストーンローゼズ等の有名どころは分かるけど、さすがに全部は分からなかった。巻末に少しだけ注釈が付いている。