Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『チューズ・ミー』(アラン・ルドルフ)

 

 今個人的に「80年代の映画を振り返る」企画をやっていて、その流れでアラン・ルドルフ監督『チューズ・ミー』(1984年)を再見。ルドルフの監督デビューは70年代で低予算ホラー(『悪魔の調教師』他)を手掛けている。その後、ロバート・アルトマン門下生となり、『ビッグ・アメリカン』等に参加、80年代に入ってがらりと作風を変えて今に至る。『悪魔の調教師』の陰惨な雰囲気と80年代の諸作を比べるととても同じ監督が撮ったとは思えない変貌ぶりだ。

 

 『チューズ・ミー』は奇妙な恋愛ファンタジー。「The 80年代」な1本として印象深い作品。ラジオの人生相談で人気のカウンセラーだが実は愛を知らないナンシー(ジュヌヴィエーヴ・ビュジョルド)、多情なバーの女主人イヴ(レスリー・アン・ウォーレン)、精神病院を出たばかりの流れ者ミッキー(キース・キャラダイン)。この3人を中心とした恋愛ゲームのような不思議な関係が描かれる。すぐ結婚を口にする誘惑者キース・キャラダインの立ち振る舞いが実に面白い。行く先々でキャラダインと遭遇するイヴの愛人役でヴェンダース『さすらい』『ことの次第』等のパトリック・ボーショーが出演。俳優たちのアンサンブルが見どころの一つ。

 

 MV風の洒落たタイトルバック、気障な台詞回し、登場人物たちの関係性に至るまで、かなり人工的でクセの強い演出は好みが分かれそう(自分は勿論好みです)。要所にテディ・ペンダーグラスの音楽が鳴り響きムードを盛り上げる。単なる雰囲気ものかと言えば全くそんなことは無くて、バスでハネムーンにむかうイヴとミッキーの複雑な表情を捉えたラストシーンなど実に味わい深い。改めていい映画だなと確認できた。