Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『PERFECT DAYS』(ヴィム・ヴェンダース )

 

 

 ヴィム・ヴェンダース監督『PERFECT DAYS』鑑賞。kino cinéma新宿にて。昨年最後に劇場で鑑賞した1本。賛否両論耳に入ってきて、これは自分の目で確かめねばと思い劇場へ。

 

 東京を舞台に公衆トイレ清掃作業員平山(役所広司)の日常生活を描く。洗練とは無縁な極めてヴェンダースらしい小品で悪くないと思う。畳の部屋で洋楽聴いて翻訳本を読む無口な中年男の日常は、あり得たかもしれない自分の姿を見るようで、ある種のリアリティを持って響いた。もし家庭を持っていなかったら、自分はああいう生活を送っている気がする。

 

 本作はドイツ人監督が東京(日本)の日常を描いた作品。ヴェンダースの日本的なるモノ(スカイツリー、相撲、神社、銭湯等々)に対する目線は、『東京画』の頃から変わってないなと驚いた。新奇なデザイナーズ・トイレの数々も同じく日本的なる素材のひとつとして楽しんでるように見える。その無邪気さがプロダクションの胡散臭さ(露骨な業界臭さ)、美しい日常みたいなテーマと相まって批判の対象になってるのも分かる。長年のファンとしては、ヴェンダースの変わらなさ(垢抜けなさ)には好感を持っただけに、この辺は悩ましいところではあった。

 

 また、主人公の清掃員という設定に対する、描き方が綺麗過ぎるだろうという批判もあるようだ。監督の主眼は労働や貧困にはないので(ヴェンダースケン・ローチではない)、この点についてはシンプルな生き方を選んだ男の日常生活として最低限のリアリティは確保されていたと思う。部屋着の上に仕事のツナギを着て出勤、休日コインランドリーに行く場面での洗濯物の少なさよ。何年もそういうサイクルで生活を続けている。そういう男なのだと。

 

 主人公が聴く音楽、ルー・リード、ザ・キンクスヴァン・モリソンパティ・スミス金延幸子等々選曲の妙はヴェンダースらしいところ。ニーナ・シモンは反則かな。凄みがありすぎて映像を凌駕しちゃってる気がした。音楽と言えば、居酒屋のママ(石川さゆり!)が『朝日のあたる家』を熱唱する場面には驚愕した。居酒屋のお客さん役でギターを弾いてるのはあがた森魚ではないか。何と豪華な。

 

 パトリシア・ハイスミスが出てきたのも嬉しかったな。個人的にヴェンダース経由でハイスミスのファンになったので。写真店の店主は翻訳家の柴田元幸さんでしたね。

 

 劇中繰り返し登場する主人公平山の夢。実験映画風の映像が良い感じだった。