Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『白い果実』三部作 『最後の三角形』(ジェフリー・フォード)

 

 

 短編集『言葉人形』を読んで以来、ジェフリー・フォードにはすっかりハマってしまった。長編<『白い果実』三部作>、短編集『最後の三角形』も読んでみた。ジャンルで言えばダーク・ファンタジーということになるのかな。こちらも実に面白かった。

 

 長編三部作の第一作『白い果実』(1997年)は、人間の相貌を読み解く特殊能力を持つ主人公クレイが炭鉱の町で起こった怪事件の捜査に挑む。クレイは一種のオカルト探偵のような位置付けで、全編に魔法やアクションの見せ場が満載された娯楽篇だった。第二部でクレイが収監される監獄島のホテルを切り盛りする看守猿サイレンシオ、第一部と第三部でクレイを助ける大男カルーなど脇役も印象的。最後は革命が勃発、絶対的な権力者ビロウが支配する巨大都市が崩壊する。

 

 

 第二作『記憶の書』(1999年)は、ビロウの支配する都市が崩壊してから数年後。主人公クレイは廃墟と化した都市を離れ、村で平和な生活を送っていた。しかしビロウがウイルスをばら撒いた「眠り病」で村が崩壊の危機にさらされ、クレイは特効薬を探す旅に出る。特効薬の秘密を探るため、クレイはビロウの意識下の世界に侵入する。そこで出会う四人の研究者との奇妙な生活。水銀の海、空中に浮かぶ島のイメージが強烈。特効薬をめぐる結末はかなり皮肉で、全くヒロイックではないところがいい。

 

 

 三部作完結編は『緑のヴェール』(2002年)。『記憶の書』の最後に村を追われたクレイは、異形の生物や多様な民族が住む<彼の地>へと歩を進める。『緑のヴェール』はクレイの過酷な旅路を描く冒険活劇であり、意外な人物を語り手に据えることで「物語る」ことについての重層的な考察が展開する興味深い作品だった。

 

「どうして物語なんぞにこだわるんだ?」

「世界が数々の物語で出来ていると知っているからですよ」緑人は答えた。

 

 

 

 短編集『最後の三角形』は、『言葉人形』同様、全く先読みの出来ない短編が14篇収録されている。特に冒頭に収録された『アイスクリーム帝国』は凄すぎて、直ぐに読み返してしまった。『アイスクリーム帝国』と『創造』(『言葉人形』収録)はここ10年くらいで読んだ中で最も衝撃的な短編小説だったと言っても過言ではない。

 昆虫型の異星人と往年のハリウッド映画で交易する『エクソスケルトン・タウン』、子供が作る砂の城に住む妖精の冒険『イーリン=オク年代記』、ミステリー仕立ての『タイムマニア』『星椋鳥の群翔』等々‥‥。どれも奇想をきっちりエンタメに落とし込んでいて、長編映画を見終えたような満足感が味わえた。

 作者フォードについてはアメリカ人ということ以外知識を持たない。故郷を離れた者の話、また主人公が古い因襲と魔術に縛られた町を出る結末が多いが、自身の来歴となにか関係があるのだろうか。