Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『ザ・シネマハスラー』(ライムスター宇多丸)

TAMAFLE BOOK 『ザ・シネマハスラー』

TAMAFLE BOOK 『ザ・シネマハスラー』


 遅ればせながら、名著と名高い『ザ・シネマハスラー読みました。ラジオ番組『ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル』内の映画評論コーナーを書籍化したもので、2008年〜2009年に公開された映画から、メジャー・マイナーこだわらず(ハリウッド大作から『カンフーくん』『20世紀少年』といったダメ邦画まで)幅広くセレクトされた作品を論じている。


 驚いたのは、宇多丸氏の評論が予想以上に正当派であったこと。単なる好き嫌いや、話題作を面白おかしく語ってお茶を濁す事は無く、極めて論理的に良い点、悪い点を指摘している。しかも、批判している作品でさえも「それ見てみたいわ」と思わせる話術の面白さもある。『カンフー・パンダ』や『私は貝になりたい』なんかをここまできちんと語った評論は他にないのではと思う。お見事!


 同世代のせいか、大林宣彦ブライアン・デ・パルマに対する思いには非常に共感出来るなあ。また『スカイ・クロラ』評など正に我が意を得たりという感じであった。紹介された中には全くノーチェックだった作品もあり、『その土曜日、7時58分』(シドニー・ルメット)、『シークレット・サンシャイン』(イ・チャンドン)、『今、僕は』(竹馬靖具)はその内チェックしてみようと思う。


 さておき、映画好きなら一読の価値がある真っ当な「映画評論集」だと断言しよう。