- 出版社/メーカー: ファーストトレーディング
- 発売日: 2011/02/15
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『素晴らしき哉、人生!』 IT'S A WONDERFUL LIFE
監督/フランク・キャプラ
脚本/フランセス・グッドリッチ、アルバート・ハケット、フランク・キャプラ
撮影/ジョセフ・ウォーカー、ジョセフ・バイロック
音楽/ディミトリ・ティオムキン
出演/ジェームズ・スチュワート、ドナ・リード、ライオネル・バリモア、ヘンリー・トラヴァース
(1946年・130分・アメリカ)
今まで食わず嫌いをして見ていなかった『素晴らしき哉、人生!』(1946年)見る。アメリカ映画ベスト10なんて企画には必ず上位にランクインする名作中の名作。アメリカではクリスマス映画の定番となっているという。(以下ネタバレあり)
父親の急死で家業の住宅金融会社を引き継ぐ事になったジョージ・ベイリー(ジェームズ・スチュアート)は、町を牛耳る銀行家ポッター(ライオネル・バリモア)の度重なる圧力にも負けず、懸命に働いていた。結婚し家庭にも恵まれて、事業も好転するかに見えたが、大金を紛失し会社は破産寸前に追い込まれてしまう。自殺を決意したジョージの前に、翼の無い二級天使クラレンス(ヘンリー・トラヴァース)が現われた・・・。
クライマックス、橋から身投げしようとしたジョージは天使に助けられる。天使の力でジョージは「自分が生まれてこなかった世界」を垣間見る。その世界では、街は荒廃し、人々は殺気立ち、不幸に喘いでいる。自分の存在意義を知り、これまでの人生がいかに素晴らしいものだったか理解したジョージは、自殺を思い止まり家族の元へと戻るのであった。めでたし、めでたし・・・。
ちょっと待てよ。もし「荒廃した世界」こそが本当の世界で、「自分が生まれて皆が幸せになった世界」の方が幻だったら。もし自分が生まれてこなかったら、妻はもっといい男性と結婚して幸せになってるかもしれない。妻の子供はもっと裕福な家庭で幸せに成長しているかもしれない。そもそも、ハッピーエンディングは橋から身を投げたジョージが死ぬ間際に見た幻影ではないのか?・・・ラストの怒涛のような盛り上がりに感動しつつ、どうしてもそういう暗い妄想を追い払う事が出来なかった。
何故そんなことを考えたかと言えば、終盤における主人公ジョージの豹変ぶりがあまりに激しかったからである。大金を紛失した事が分かると、ジョージは同僚に掴みかかり激しく罵る。家に帰ると、楽しくクリスマスの準備をしていた妻や子供に当たり散らす。子供の頃からアクシデント続きだったが何とか明るく乗り切って来た好青年ジョージが、積年の不満を一気に爆発させたかのような変貌ぶり。ジョージの抱えた暗部が垣間見えてゾっとさせられた。敢えて主人公の酷い振る舞いを見せることで、単なる絵空事に終わらぬように配慮したキャプラの演出だと思うけれども、個人的にはそこが妙に引っかかって、ラストに至る感動的な盛り上がりを素直に受け取れなくなってしまったのであった。
そもそも会社の金に穴を空けておきながら、それを街のみんなの募金で埋めようってのは無理な話じゃなかろうか。監査役の見てる前で。最後には監査役も募金して一緒に歌ってたけど、いいのかそれで。ううむ。
映画としては、60年以上も前の映画とは思えぬテンポの良さで、130分の長尺を飽きずに見終える事が出来た。冒頭で神様(?)と天使の会話を星の瞬きだけで描くとか微妙にユルい描写も面白かった。ああ、これが『バック・トゥ・ザ・フューチャー2』の某場面の元ネタだったのか、と発見もあった。
この映画で一番良かったのは、主人公を助けた事で翼を得た二級天使のクラレンスが最後に送ったメッセージだった。映画全体の放つ雰囲気や前向きなメッセージ性にはいささか乗り切れない自分であるが、このメッセージだけは素直に信じたいと思う。曰く、
「友のある者は敗残者ではない」
オレ、まだ大丈夫かな。