Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『EXITENTIALIST A GO GO -ビートで行こう-』(THE BEATNIKS)


 1987年にリリースされたTHE BEATNIKS高橋幸宏鈴木慶一)のセカンド・アルバム『EXITENTIALIST A GO GO -ビートで行こう-』。前作『EXITENTIALISM 出口主義』のダークな雰囲気とは変わって、フォーキーで親しみやすい名曲が並ぶ。思えばこのアルバムとは24年もの長いお付き合いだ。慶一氏のソロ活動の中でも特に好きな一枚で、今でもたまに聴き返す。オリジナルのリリース以来、1990年、1994年、2003年と何度もリイシューされている人気のアルバムである。


 収録曲は、


 M-1. TOTAL RECALL
 M-2. ある晴れた日に
 M-3. 初夏の日の弔い (ONCE UPON A SUMMER FUNERAL)
 M-4. COMMON MAN
 M-5. THEME FOR THE BEAT GENERATION
 M-6. ちょっとツラインダ
 M-7. STAGE FRIGHT
 M-8. 大切な言葉は一つ「まだ君が好き」
 M-9. GRAINS OF LIFE
 M-10. PILGRIMS PROGRESS
 

 (アナログ盤ではM1〜M5がSIDE A、M6〜M10がSIDE B)


 本作最大の特色は、私小説的な(等身大の)歌詞がストレートに歌われている事だ。これが何とも味わい深い。曲としては幸宏氏の『ONCE A FOOL...』(名曲「今日の空」収録)辺りに連なる切ない感じがアルバム1枚ずっと続くようで、とても良い。特に慶一氏作詞の2曲、M-6「ちょっとツラインダ」、 M-8「大切な言葉は一つ「まだ君が好き」」は必殺の名曲。彼女が去った後で納得できずにいる男の(情けない)本音を綴った歌詞は涙なしには聴けません。もうスタンダードナンバーですよ、これは。


 アルバムの中で異色の印象を受けるM-4「COMMON MAN」は慶一氏の作詞・作曲。『最後の晩餐』収録の「10時間」、『P.W Babies Paperback』収録の「親愛なるBlack Tie族様、善良なる半魚人より」等々、90年代以降のムーンライダーズのアルバムには、社会性と私的情景がクロスする慶一氏作のへヴィーな曲が毎回収録されているけれど、これはその原型だと思う。


 両氏にとって思い入れの深いアーティストであろうザ・バンド(M-7)とプロコルハルム(M-10)のカヴァー、アナログ盤だとA面の最後に収録されたインスト曲「THEME FOR THE BEAT GENERATION」(M-5)もいいなあ。M-1は某自動車メーカーのCMに使われる予定だったのに、「RECALL」という言葉が引っかかって取り止めになったのだとか。


 参加ミュージシャンは坂本龍一(ストリングス・アレンジ)、細野晴臣小原礼(ベース)、サンディ(コーラス)、小林武史(キーボード)、矢口博康(サックス)ほか。音作り、歌詞、ジャケットや歌詞カードのデザイン性等、トータルで見て高い統一感と完成度を誇っているアルバムだ。当時の彼らのレーベル(TENT)の決定打にしようという意気込みが強く感じられる。そう言えば、珍しくTVの歌番組(フジテレビ系「夜のヒットスタジオ」)などにも出演してたっけ。


 THE BEATNIKSの2人は、ずっと年上の大人という印象であった。自分が10代の頃から、大人っていいなあと思いながら彼らの作品を聴き続けている。しかし、ふと気が付いてみると今や自分もそれなりの年齢になってしまっている訳で。本作をリリースした当時は、幸宏氏35歳、慶一氏36歳。今の自分はとっくにその年齢を超えてしまっているではないか。そんな事を考えながら本作を聴き返してみると、また感慨深いものがある。


 ♪ 今まで一度も傷ついた事のない奴は信じられない (「大切な言葉は一つ「まだ君が好き」」)






EXITENTIALIST A GO GO

EXITENTIALIST A GO GO