Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『殺して祈れ』(カルロ・リッツィアーニ)

殺して祈れ [DVD]

殺して祈れ [DVD]


『殺して祈れ』 REQUIESCANT


 監督/カルロ・リッツァーニ
 脚本/アドリアーノ・ボルツォーニアルマンド・クリスピーノ、ルチオ・バティストラーダ
 撮影/サンドロ・マンコーリ
 音楽/リズ・オルトラーニ
 出演/ルー・カステル、マーク・ダモン、バーバラ・フレイ、ロザンナ・クリスマン、ピエル・パオロ・パゾリーニ
 (1967年・102分・イタリア/西ドイツ)


 久々にマカロニ・ウエスタン鑑賞。『殺して祈れ』(1967年)見る。監督はリー・W・ビーヴァー名義で『帰って来たガンマン』(1966年)を撮ったカルロ・リッツィアーニ。ジャン・マリア・ヴォロンテ主演の『山いぬ』等で社会派として知られている監督らしいのだが、60年代後半の大ブームの中、ひょっこりマカロニ・ウエスタンを手掛けているのであった。


 DVDジャケットはオリジナル・ポスターの図版を使用している。聖書と銃を手にして立つ髭面の男。向こうには死屍累々。『殺して祈れ』ってくらいだから、ガンマン牧師が活躍する映画なんだろうというのは想像がつく。ところが、さすがはマカロニ・ウエスタンだ。このポスターは思いっ切りハッタリなのであった。主人公は牧師に育てられた朴訥な若者で、演じるルー・カステルはポスターのイラストとは似ても似つかないとっちゃん坊や的ルックスで、「これが主役?」みたいな感じ。ガンベルトが無いのでホルスターを荒縄でぶら下げていたり、フライパンで馬の尻を叩いて走らせたり、ワインで泥酔したり、とにかくカッコ悪い。殺した相手に「汝の魂に安らぎを・・・」みたいな祈りをささげる辺りは想像通りだったが。この主人公の造形が何ともユニークで、胡散臭いガンマンが跳梁跋扈するマカロニ・ワールドでも相当異色の部類と言ってよかろう。ちなみにルー・カステルって、フィリップ・ガレルの『愛の誕生』のカステルと同一人物?『愛の誕生』では随分と恰幅の良いオッサンだったが・・・。


 対する悪役はマーク・ダモン。没落貴族の役で、黒マントを羽織り何故か顔を白塗りにして、まるで怪奇映画から抜け出てきたような姿。主人公が拷問(水責め)されているところを笑いながらスケッチしていたり(妙に上手いのがおかしい)、用心棒との関係が妙にホモ臭かったり、ビザールな人物描写が面白い。主人公を助けるメキシコ人ゲリラのリーダー役で何とピエル・パオロ・パゾリーニ監督が出演。出番はそれほど多くないけれど、眼力が凄くて印象に残る。


 冒頭のメキシコ人皆殺し、首にロープをかけての決闘、マーク・ダモンが奥さんを監禁する部屋(何故か防音マットみたいなものが敷き詰めてある)、教会の鐘の使い方など、個々の場面が妙に凝っていて最後まで飽きさせない。ベンベンベンとエレキギターが唸る音楽(リズ・オルトラーニ)が、マカロニ気分を盛り上げていた。


 正直言って、お話は相当に雑だ。主人公の本来の目的であるヒロイン奪還や、育ての親との約束はいつの間にか忘れられている。主人公が銃の名手という設定になっているけれど、たまたま撃ってみたら上手かった、みたいなアバウトな描き方なのにも驚いた。全体的にみるといささか難ありという映画なのだけど、上記のような人物描写や、妙に凝った見せ場が忘れ難い印象を残す異色のマカロニ・ウエスタンであった。