Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『ショートカットの女たち 』(パトリス・ルコント)

ショートカットの女たち

ショートカットの女たち


 『週刊文春』の連載「私の読書日記」で、俳優の山崎努氏がパトリス・ルコントの小説を紹介していた。パトリス・ルコントといえば、『髪結いの亭主』『仕立屋の恋』などの作品で日本でも人気が高いフランスの映画監督。個人的には特に興味の無い監督なので、「へえ、ルコントって小説も書くんだ」くらいで読み過ごすところだったが・・・。


 小説のタイトルは『ショートカットの女たち』LES FEMMES AUX CHEVEUX COUTRTS。ショートカットの女たち、か・・・。速攻読むことにした。友人たちには「また言ってるよ」と呆れられそうだが、オレはショートカットの女性が大好きなのである。女性のヘアスタイルでショートカットほど美しいものはない。そう信じて止まない。ショートカットの女性について語り出すと、時間がいくらあっても足りないだろう。


 『ショートカットの女たち』はこんなお話。主人公トマは、文房具屋に勤める27歳の青年。母親を安心させるために花嫁を探している。お相手の条件は、ショートカットであること。トマは親友のアンドレも呆れるほどショートカットの女性にこだわりがあるのだった・・・。ショートカットの女性の群像劇ではなくて、ショートカットの女性を愛する青年の物語である。


 ショートカットの女性に対する偏愛がこと細かに描写される前半はとても面白い。と言うか、単に「面白い」なんて生半可なものではなくて、主人公のこだわりはこれってオレの話?みたいなリアルさである。多分ルコントもホントにショートカットの女性が好きなのだろうと思う。『橋の上の女』見た時、もしかしてそうかなとうっすら感じたが、その印象は当たりだった訳だ。そうか、同好の士かとルコントのことがちょっぴり好きになった。


 そうは言ってもこれは日記やエッセイではなく小説。なのでいろいろな「事件」が起こる。階上に住むピアニストや近所のカフェのウエイトレスとの情事とか、職場でのあれこれとか、親友のインド行きとか・・・。それくらいは事件が起きないと小説として面白く無いだろうとは思うけれど、何だか急にわざとらしくなるようで興味が失せてしまった。特に、文房具店の上司が髪をショートにして「娘は気に入ってくれると思う」と発言する当たりでもうオチが読めてしまうのはいかがなものかと・・・。なんて、同好の士としての単なるイチャモンです。人物の配置、洒落た会話、文房具やら列車模型といったディテール描写など、彼の映画が好きな人にはきっと満足行く小説であろう。


 主人公が理想通りショートカットの女性と結婚してめでたしめでたし・・・というのは小説の中の話。同好の士としては、ルコントにはその後をこそ描いて欲しかった。って、「その後」は己の実生活で経験済みだろってか。


 さておき、もし『ショートカットの女たち』が映画化されたら・・・。そん時はもちろん見に行きますよ!監督ルコントでもOKOK!