Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『マジメとフマジメの間』(岡本喜八)

マジメとフマジメの間 (ちくま文庫)

マジメとフマジメの間 (ちくま文庫)


 唐突に岡本喜八監督のエッセイ集『マジメとフマジメの間』(ちくま文庫)が刊行された。主に戦争と映画をテーマに、今まで単行本未収録だったエッセイを集めたもの。岡本監督は日本の映画監督の中で最も敬愛する一人なので、迷わず購入した。


 岡本喜八監督(1924〜2005)と言えば、『独立愚連隊』『江分利満氏の優雅な生活』『日本のいちばん長い日』『肉弾』『大誘拐』など、多彩な娯楽映画の数々で日本映画界に足跡を残す偉大な監督だ。『独立愚連隊西へ』『血と砂』『殺人狂時代』『戦国野郎』『斬る』『ああ爆弾』『ジャズ大名』・・・フィルモグラフィーはもう名作だらけ!映画好きの間では昔から人気だけれど、もっともっともっともっともっと高く評価されてしかるべき監督だと信じてやまない。


 さておき『マジメとフマジメの間』について。戦争批判は岡本監督のライフワークともいえる一大テーマだ。本書のエッセイにはそのベースとなった戦時中の体験談が綴られている。不条理な軍隊組織や戦時下の悲惨な生活の中で、全てユーモアに転換することで精神の正常を保ち生き延びて来た岡本青年の姿が浮かび上がる。その姿勢はすなわちへヴィなテーマをユーモアを交えた軽快なテンポで描く岡本監督の作風に直結している。


 本書には岡本監督が助監督時代に接した往年の大監督たち(マキノ雅弘成瀬巳喜男黒澤明ら)、大スターたち(原節子三船敏郎ら)のエピソードも多数登場する。中でもマキノ雅弘から得たものはかなり大きかったのだなあということが分かる。撮影所の師弟関係というか、映画監督の仕事(現場の仕切り方、シナリオの読み方、演出手法・・・)の継承はこうして行なわれたのかと分かり易く伝わってくる貴重なドキュメントになっている。原節子のエピソードは・・・正に萌えですよ萌え!


 岡本監督が同時代的にフランスのヌーヴェルヴァーグに接した際のエッセイなども興味深い。恐らく既成のスタイルの破壊やアメリカ映画への憧れなど、共感する部分も多かったと思うが、当時企業内監督(東宝)であった岡本監督の複雑な心情が伝わってくる文章だ。


 岡本監督は長年本場アメリカで西部劇を撮ることが夢であった。本書にも再三その企画が登場する。企画から20数年の時を経て、やがてそれは『East Meets West』(1995年)となって完成する。監督が体調を崩したせいもあろうが、残念ながら『East Meets West』に往年の切れ味は無かった。封切当時劇場で見て、オレは2度泣いた。冒頭の場面を見て「岡本監督がついに西部劇を」という感激で。そして鑑賞後には失望で・・・。いやいや岡本監督の映画は思い入れが強過ぎて、語り出したら止まらんですよ。久しぶりに『独立愚連隊西へ』でも見直してみようかな。


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